名前は一寸前ばかりに伊達政宗に斬りかかれて背中に大きな傷を負った。だがそんな事はどうでもいい。名前は死者、ひいてはゾンビだった。しかし痛みも感じず、傷もすぐ塞がるとはいえ斬りかかられた着物は再生しない。おまけに名前の血液がべったりと付いているときた。もう、いやになってしまう。この着物は先日新調したばかりだったので名前はひどく落ち込んで仕方なく片倉に会いに行った。本当は嬉々として片倉の部屋に向かった。名前は何かあるとすぐに片倉を訪ねるのだった。
目当ての襖を見つけすぱりと開く。礼儀作法もあったもんじゃない。片倉はちらりと血まみれな名前を見たが、その爛々とした目を確認してまたすぐ仕事に取り掛かった。


「片倉殿っ!失礼致す!!」
「ああものすごく失礼だ今すぐ死ぬかこの部屋から出ていけ」
「ああ、それで用事は何だったかな、片倉殿に会えた嬉しさで全て吹き飛んでしまったよ。」
「鬱陶しい、十文字で話せ」
「片倉殿のお味噌汁が毎日飲みたい、といったところか」
「十文字以上ださっさと死ねこの死にぞこないが」
「冗談だからそんなこと言わないでくれ。何かが目覚める」
「目覚っ・・・・・はあ」
「その溜め息ですら妖艶だね。それでたった今用事を思い出した。キスしようか」
「き、す?」
「っ!可愛いなあもう!片倉殿の平仮名表示の言葉こそこの世の至極・・・!この一瞬を胸に刻みつけるため、名字名前、今ここで切腹します!」
「切腹は外でやれよ、俺の部屋が汚れる。あときすとはなんだ、教えろ」
「実践で良いなら喜んで」
「・・・いや、ことわ」
「無言は肯定とみなす。片倉殿覚悟ォ!」


肯定でも否定でも名前のやることは変わらない。名前は片倉の返事も聞かず片倉に飛びかかった。片倉は目を少しばかり開いて、よく回る頭でこのまま名前にきすの意味を教わるのと名前を殺すのはどっちがいいか考えた。すっと目を細める。すぐ答えは出た。簡単だ。名前を殺してから聞けばいいのだ。そこから片倉は流れるような動きで名前の胸部、ちょうど心臓のあたりにどぷりと刀身を埋めた。すっと引き抜くと血液がぽたりと畳に落ちて、ああ、またやってしまった。畳の血汚れは落ちにくいのだ。まだまだ俺も若いな、と片倉は首をふってぴくりぴくりと痙攣する名前の体を塀の外に投げ捨てた。ぼすり。鈍い音がしたのを確認して、片倉は何事もなかったかのように仕事にとりかかる。緩やかな昼下がり。今日も平和だ。




モドル