コレの続き




モトハルは名前に押し倒されていた。



どうしてこうなった、とかは全て分かりきっていて、それでいて納得もした上で、実際にやってみて頭をかきむしりたいような衝動にかられたモトハルはもう辞めたいという願いを込めて名前を見つめた。そんなモトハルに気が付いて名前は笑う。ほの暗い空間もあってか、いつもからは想像もできないくらい艶めかしいその笑みにモトハルは思わず顔をそらした。名前の柔らかい髪の毛がモトハルの頬を撫でる。モトハルは死にたくなった。


「ふふっ、緊張しちゃって、可愛いなあモトハルは」
「そりゃ、ドーモ」
「大丈夫、全部私に任せて?」
「……はあ」
「愛してるよ、モトハル」
「ああ・・・」


名前がつつとモトハルの頬を撫ぜる。モトハルは全身が粟立つのを感じた。顔色は真っ赤を通り越して蒼白である。心なしかげっそりしたようなモトハルを見て名前は満足そうに微笑み、身体を起こした。


「まあ、ざっとこんな感じで」
「マジかよ・・・マジで俺にこれやんのか」
「私にやらせといて今更何を言う、私だって恥ずかしかったんだから」
「嘘だろ、ノリノリだっただろ」
「そう言うんじゃ私が続きやろっか?」
「……いや、いい、俺がやる。やればいいんだろ」


そんなら早くしてよ、と名前はモトハルのベッドに寝ころんだ。四肢を投げ出すその姿に微塵も防御力なんて感じられない。ドギマギしつつ恐る恐るモトハルは名前の上にのしかかった。それから…どうすればいいんだっけ。緊張もろもろで真っ白になったモトハルの頭は思考回路が死滅してしまったらしい。ただ、ここまで至った経緯が頭の中で鮮やかによみがえる。
今日は名前の誕生日である。何か欲しいものあるか?と尋ねたところ、モトハルの童貞。と言われてお茶を吹いた自分が思い出された。なんだか遠い過去のようだ。つい数十分前の出来事なのに。名前の奇行はどこまでもモトハルを動揺させる。それから、嫌だ、まだ早いとお決まりのセリフを言うモトハルに、じゃあ私がお手本見せるから!そういう問題じゃねえよ!私今日誕生日じゃん!なんてやりとりをし、押しに弱いモトハルは流れ流れこんな状況になってしまったのである。回想終わり。
いつまでたっても何もしないモトハルに、名前は不機嫌そうに言った。


「・・・おい、いつまで黙ってんのモトハル。さっさと始めろ」
「ちょっと待って・・・心の準備が・・・!!」
「まだそんなこと言ってんの?・・・生娘」
「生娘じゃねーよ!」
「だったら早くしろーい。最初のセリフは"こんなに緊張して可愛いな"だよ」
「だって名前緊張してねえじゃん・・・!」
「・・・緊張してるに決まってるだろ、馬鹿」
「嘘だろそれは」
「・・・馬鹿、じゃないの。馬鹿」


暗闇に目が慣れてきて、名前の顔がよく見えるようになってきた。名前の顔はよく見ると真っ赤で、目も潤んでるような…。ああ、そうか。モトハルはようやく気が付いた。名前だって緊張してるのか。そんな当たり前のことに気が付いてモトハルは名前に何とも言えない愛しさを感じた。こんなに真っ赤になってるのに、俺のためにお膳立てしてくれて…。健気と言うか、なんというか。


「可愛い、な」
「!?えっ、な!?」
「…名前が言えって言ったんだろ」
「ああ、そっか・・・ごめん・・・」
「……名前は可愛いな、こんなに緊張して」


それをモトハルが言うかと、名前は思ったが自分が言わせた手前、口の中で呟くぐらいしか出来ない。
モトハルはそんな名前を見てだんだん冷静さを取り戻しつつあった。片方が混乱すると片方が冷静になっていく原理である。ここまで来たらもうやるしかねえ…!モトハルはようやく腹をくくった。頬をぎこちなく撫でると名前の身体がびくりと強張る。


「大丈夫だ。全部、俺に任せろ」
「・・・っ!」


自分で言ったセリフなのにモトハルが言うとこうも違うものか。いきなりイケメンモードに入ったモトハルに名前はもはや首筋まで真っ赤になってた。モトハルの真っ直ぐこちらを見つめる瞳は名前を捉えて離さない。急に鼓動を早める心臓の音がうるさい。全身に響き渡っているようだ。急に、大それた、いけないことをやっているような気がした。今まで思い浮かべていたものが現実味を帯びて名前にのしかかる。目眩がした。


「愛してる、名前」


吐息まじりに囁かれた言葉。擦れた声。うるんだ瞳に切なげな表情。今だかつて、こんなに色っぽいモトハルが居ただろうか。いや、いない。意外に長いまつげが伏せられて、モトハルの顔が近づいてくる。熱い吐息が頬に触れて、もう、どうしようもなくなってしまった。
名前は申し分程度に息を吸って目を伏せ、そして――――――――


「ふんぬッ!!」
「ア゛ダッ!!!!」


思い切り、頭突きをした。
かなり近くからの攻撃、その上に完全に油断していたこともあって、頭突きはモトハルにクリティカルヒット。モトハルは頭を抱えて痛みに悶えている。その間に、名前はもそもそとモトハルの下からはい出し仁王立ちした。ずびしとモトハルを人差指で指して叫ぶ。


「この破廉恥野郎!!!!!!!」
「な、なん…だって、生娘の次は破廉恥野郎かよ……。てか、破廉恥は死語だろ」
「うるさい!!これから一か月!!金輪際私に触らないでよね!!!ありえないわこの歩く18禁めがああああ!!!!」
「なんだと…お前が、お前があんだけ煽ったんだろうがああ!!!あんかクソ恥ずかしい台詞吐かせやがってぇぇぇええええ!!!!!!」


クッションを投げつける名前にモトハルが応戦する。お互いに顔はゆでダコのように真っ赤だ。原因が真逆なだけで、いつもと変わらない光景であった。




モドル