2月22日―――猫の日。222をニャンニャンニャンに引っかけたものだが、犬の日(ワンワンワン)はなぜか1月11日ではなく11月1日で、猫の日のずっと後に来る。これは、ネズミにだまされて十二支に入れてもらえなかったネコを気遣ったためだと、ネコ好きは固く信じよう。―――――アンサイクロペディアより引用 いつものようにタダクニの家でダラダラしていた三人に、今日はちょっぴりおませさんで、でも憎めない名前(自称)が遊びに来ていた。襲撃に来たと言った方が正確かもしれない。怪しげな紙袋を手に持ち、いつもより三倍増しで笑顔が輝いている名前に三人はなにか危ないものを感じた。 あ、俺、塾あるから帰るわ、と素早くヒデノリは立ち上がったが名前に足をかけられて見事にすっ転び、それに便乗しようとしていたヨシタケが中腰のまま固まった。緊迫した空気。タダクニはヒデノリお前塾行ってないだろ!というツッコミと唾をごくりと飲んだ。 そんな三人を時に気にするようすもなく名前は気持ち悪いくらいというか実際気持ち悪い笑みをたたえてこう叫んだ。 「今日は猫の日ですね!」 「そうだな」 「そうだっけ?」 「猫の日って何?」 「!?タダクニ猫の日知らないの!?まじで!?」 「うん、まあ」 「奥さん聞きました!?猫の日も知らないんですって、このタダクニ君は」 「まあ、なんてこと!」 「この恥知らずが!」 「なんで俺、猫の日知らないだけでこんなに責められてんだよ」 「だって」 「だーって」 「だーーって」 「だってなんだもん!」 「やかましいわ!男のくせに」 「男がキューティーハニー歌って何が悪い!」 「名前が始めたんじゃねーかよ!」 「私だってって言っただけじゃん!乗っかったヨシタケが悪い!」 「いや!俺じゃないね!どう考えてもヒデノリが悪い!」 「じゃあ俺タダクニで」 「なんで俺!?俺関係ねーじゃん!」 「あー、そー言われると確かにタダクニが悪いような気がしないでもないような」 「俺もなんかそんな気がしてきた。つーか、めんどくさいからタダクニでよくね?」 「そうだな。争い事は何も生まない」 「なんでだよ!なんでそうなるんだよ!」 タダクニは頭を抱えた。二人でも大変なのに名前もいるとかマジふざけんなよ・・・! 名前はタダクニにとってジャイアン的存在だ。そして面白がって名前に乗っかるヒデノリとヨシタケはほぼスネオ。ジャイアンがいることでスネオ二体の攻撃力っていうかふざけ具合が格段に酷くなるのだ。ドラえもんポジションがいないのびた、つまりタダクニがさばくことは非常に難しい。つーかスネオ二体ってなんだよ! タダクニは名前の怪しげな紙袋に視線を落とした。名前の今日の目的はこれに入ってんだろう、さっさと要件済まして帰ってもらおう。 「つーか名前、その紙袋なんだよ」 「え、それ突っ込んじゃう?」 「あ、俺も!俺も気になってた!」 「ふふふふふよくぞ聞いてくれましたタダクニ君!見よ!これを!」 じゃーん!と名前が擬音付きで取り出したものはカチュ−シャに猫の耳を取りつけたもの、つまりネコ耳カチューシャであった。ご丁寧に茶色、金色、黒の三色がある。三人の間に戦慄が走った。 「あ、あははははー名前ちゃん、それ、ど、どうする気かなー?」 「もちろんお前らに着ける!」 「それ可愛い女子がやるもんだろ!無理無理!」 「つーかなんでそんなの持ってんだよ!」 「買った。ドンキで。どうせならメイド服もセットのやつが欲しかったんだけど、さすがにお金無くってさー、一着しか買えなかったわ」 「買ったのかよ!」 「そのメイド服はどうした」 「いや、我に返って家に置いてきた。さすがにお前らにスカートとかないわ」 前科がある三人は一瞬黙ったが何事もなかったかのように会話を再開した。わざわざ名前に教えて墓穴を掘ることもない。 「いやー無理無理、第一俺らがやっても気持ち悪いだけだろ」 「ない!確実にない!」 「いや・・・よく考えろヨシタケにダダクニ。もしかしてその、ネコ耳は女子がやるもの!って考えがいけないんじゃないか?もしかしてネコ耳に男子高校生が人気にヒントが隠されているのかも・・・!?」 「まさか!?」 「いや明らかに違うだろ!かも・・・!?じゃねーよ!!」 「あ、あー・・・まあそういうことも・・・」 「名前ですら引いてんじゃねーか!」 ネコ耳がどうとかネコ耳メイドがどうとか大声で話しまくる三人にタダクニはうんざりした。絶対ネコ耳とか付けたくねえ・・・。ネコ耳だぞ、ネコ耳。さすがにヒデノリとヨシタケも付けないんじゃねーか?さすがに二人ともそこまで変態なわけ・・・ 「って、なんで二人ともネコ耳付けてんだよ!この裏切り者!!!」 「は?ネコ耳があったら付けるだろう何言ってんのダタクニ・・・ニャー」 「そうだ、付けないタダクニがおかし・・・ニャー」 「語尾つけんの下手糞だな!いっそ止めろ!」 「いいからタダクニもネコ耳付けろニャー!」 「付けろニャー!」 「ネコ耳を付けぬものに生きている価値なし!ニャーー!!」 「そこまで言うか!?って、ちょ、お前ら止めろ!!」 いつの間にかタダクニの背後に回っていたヒデノリとヨシタケ、もといスネオAとスネオBは素早くタダクニの脇を固めた。身動きが出来ないタダクニに名前、もといジャイアンが満面の笑みでタダクニにネコ耳を付けようとする。 ってか名前もネコ耳付けてねーじゃん!タダクニはそう叫びながら必死で抵抗したが、私はいいんだよ私は、というなんともジャイアニズム満載の一言で撃沈させられた。じょじょに近づいていくネコ耳に、もう駄目か・・・。とタダクニが諦めだしたその時だった。すぱり。小気味いい音を立ててタダクニ妹が障子を開いた。ど、ドラえもん来た!口に出すと殴られそうなのでタダクニは心の中でもう一度言った。ドラえもん来た! 「・・・」 タダクニ妹はタダクニ、ヒデノリ、ヨシタケの順で顔を見てから、名前と目が合うとすぱりと障子を閉めた。あ、ちょお、助けてドラエもーーーん!とタダクニは心の中で叫ぶ。しかしドラえもん、もといタダクニ妹は確かに救世主だった。名前が突如膝をついて泣きだしたのだ。スネオ二体とのびたは引いた。どん引きした。二人の拘束が緩んだ隙にタダクニはすかさず腕をふりほどく。 そして、どっからどう見てもガン泣きしている名前を三人は生ゴミを見るような目で見下した。なんで泣いてんだコイツ・・・。 「あああああああああああ!!!私妹ちゃんの前ではなんでタダクニ達と遊んでるか分からないくらい良い人を演じてきたのにいいい!!!」 「えっ、そうだったの?初めて知ったわ」 「そう思ってんの名前だけだから」 「死にたいいい!うわああああああああああああん!!!」 「・・・・なあ、俺、塾あるから帰ってもいいかな」 「いいんじゃね?つーか俺も塾あるし」 「・・・・・・どーでもいいけどお前らネコ耳外せば?」 モドル |