「だあああ!!またフられたあああ!!!」
「だから私言ったじゃんあの子彼氏いるって」


だって、だってと女々しく泣くミツオ君に私は盛大にため息をついた。これももう何回目のことか、数えるのも億劫だ。
そこそこ可愛い女の子に一目ぼれをして、とんでもないヘマをやらかしまくって、告白して、振られる。そのことをミツオ君は馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返しているのだ。顔は良い方なんだから普通にしてれば彼女の一人や二人すぐ出来るとおもうんだけどなあ。


「だいたいさあミツオ君って空気読めないじゃん、それが一番の原因だと思うよ私は」
「空気?空気って何だよ、空気ってさあ読むものじゃなくて吸うものじゃん、なんでみんな俺のことKYとか言うの?ホントわけわかんないなんで俺には彼女が出来ないんだよホントさあ」
「だからミツオ君が空気読めないからだよ」
「みんな!みんなそう言う!どこがだよ!俺のどこが空気読めてないって言うんだよ!!」
「全体的に」
「全体って言葉でひとくくりにしないで!」
「だってそうとしか言いようがないんだもん」
「そんなことない!俺にも空気が読めるところの一つや二つ存在するはず!」
「その空気が読める一つか二つを大量の空気読めないで打ち消してんじゃん」
「なんだと・・・!俺はそんなに空気が読めないのか・・・!?」
「うん」
「・・・実例」
「ん?」
「実例だしてくれよ俺が空気読めないっていう実例をさあ!」
「この前振られた子とは、せっかくいいムードになってたのに私の存在に気付いて声掛けてきたこととか?」
「あれはだって気付いたんだから言いたいじゃねえか」
「彼女、ミツオ君が気が付く前から気付いてたよ」
「マジかよ!」
「マジだよ、私彼女とは手を振りあった仲だもん」
「ええええ!???うっそマジ?」
「だからマジだって」
「マジかよおおおおおおお!!!!」
「しっつけえな!マジだよ!あと、サイゼ行ったときメニュー端から端まで見て、結局いつものドリアにするところとかー」
「それ空気関係ないだろ!」
「だってすげえむかつくんだもん」
「名前だってメニュー超見るだろ」
「ミツオ君程じゃないし、ミツオ君店員さんが来てもメニュー読んでんじゃん。あれ迷惑だからやめた方がいいと思うよ」
「名前が勝手に呼ぶんじゃねえか!」
「いつも聞いてから呼んでるよ」
「嘘だッ!!!」
「あと似てないのにレナちゃんの真似するとことか?」
「なっ!ななななあな真似じゃねえよ真似じゃ」
「絶対意識してやったでしょ」
「してねーし!つーか俺ひぐらし読んでねーし!!」
「ダウト!」
「何故ばれた・・・!」
「この前遊び行った時普通に本棚に入ってじゃん」
「隠し忘れた!」
「なんで隠す必要があるんだよ、いいじゃんひぐらし!公言しちゃえばいいじゃん!」
「いや、なんか、なんとなく、」
「後ろめたい気持ちがありますね?」
「ハイ!」


そう清々しく言うミツオ君の頭にはもう降られた彼女のことなんてこれっぽっちもなさそうだ。彼女へのラブコールをさんざん聞かされた私ですら、本当に彼女のこと好きだったの?と言いたくなるような頭の切り替えのよさ。ミツオ君のこういうところが駄目なんだろうなあと思う。口には出さないけれど、口に出したところでどうなるとも思えない。ミツオ君は絶望的に他人の気持ちに鈍いのだ。


「あー彼女ー彼女欲しーいー」
「じゃあ作れよ」
「作れねえから彼女がいないんだろうが!!」
「ねえ、ミツオ君」
「何だよ」
「私ミツオ君のこと好きだよ」
「俺も名前のこと好きだけど」
「ばーか、死んでまえ」




モドル