!!未成年の飲酒は法律により禁じられています




「唐沢君、お顔が近くないですか」
「・・・普通、だろ」


そう言う唐沢君の頬はほのかに赤い。原因は分かっている。私が酒を盛ったのだ。お兄ちゃんのチューハイを発見した私はつい閃いてしまった。あの時の私はおちゃめだった。今となっては後悔している。だが反省はしてない嘘です超反省してます。唐沢君はコーラに混入された異物の存在に見事に気付かずにチューハイコーラをちびちび飲み、見事に酔っぱらってしまったのだ。こんなに上手くいくとは思っていなかった。


「うん、お前可愛いな」
「何言ってんの?」
「俺がこんなに名前のこと好きなのに、酷いなお前は」
「ハイハイ、酔っ払いさっさと寝ろ」
「酔ってねーよ」
「みんなそう言う!みんなそう言うから!」
「酔う理由がない」
「あれ、雰囲気に酔ったんじゃないの?あはー」
「・・・おまえ、なんか盛ったろ」


いつもより三割増しで声が大きい唐沢君はいぶかしげに私を見た。どうやら勘の良さは健在のようである。バレたらネチネチ説教されるに違いない。この前の三時間正座事件で私はもうすっかりこりていた。あれ?こりてないからこんなことやってるのか?ともかく私は笑ってごまかす作戦をとった。


「え、えへへへそんなわけないじゃーん」
「頭がくらくらする」
「風邪じゃないかな?あははは」
「かおがあつい」
「私が可愛すぎて赤面したんじゃないかなうふふふふ」
「なんかアルコール臭いんだが」
「・・・えへ」
「・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・」
「すみませんしたああああ盛りました!!!」
「何を」
「・・・・チューハイ?」
「何やってんだ殺すぞお前えええ!!」
「ええええ!!!」
「あんだこらあ?もんくあるのかあ?」
「ちょ、唐沢君キャラ違くないですかちょ、」
「おまえのせいだ」
「呂律回ってないんだけどえええすげえな酒の力」
「全部お前のせいだからな」
「ハイ、すいません」
「ちゅーしろ」
「は?」
「だから、ちゅーしろっていってんじゃねーか」
「は、え?何に?」
「おれに」
「全くわけがわからないよ」
「おれだってわけわかんねえよ」
「寝ろ!唐沢君!いいから寝ろ!この件は無かったことにしてあげるから!!ね!寝ろ!!」
「いいから」
「え、ちょ、」


唐沢君は私の肩をぐいと掴むとそのまま私を押し倒した。フローリングの床は冷たい。私が頭の鈍い痛さに悶えているとぱさり、私の視界を何かが塞いだ。私が慌ててよけようとする。・・・・あれ?これ、は?私の脳みそがフル回転して結果を叩きだす。唐沢君の帽子じゃ、ないですか。あれだけ取るのを嫌がっていた帽子、三時間正座事件を巻き起こした帽子、私の顔からサッと血液が引いていく。


「!!から、唐沢君、帽子っ」
「そのままで聞け」
「えっ、はい」
「俺は」
「うん」
「俺は、」
「うん」
「なんでお前を押し倒してるんだ・・・?」
「知らんわ!さっさとのけ!」
「でも、ああ、全部お前が悪いから、まあいいか」
「よくない、全然よくないよ!」


唐沢君が近づいて来る気配がする。私は逃げようとしたけれど、手首が唐沢君に掴まれていて身動きができない。いつの間に手首なんて掴まれてたんだ・・・!さすが唐沢君!なんて感心してる場合じゃない。せめてもと私が脚をばたつかせると太股の間に唐沢君の膝が滑り込んできた。スカートが捲れるっていうか、ああ!もうテンパってきた!なんなの!?どういうことなの!!
そんな私もおかまいなしに唐沢君の動きは止まってくれない。首筋にこそばゆい感覚がして、それが唐沢君の髪の毛だと気が付いた時には私はもう限界だった。


「ちょ、や、唐沢君、やめっ」


自分でもびっくりするくらい情けない声を絞り出すと唐沢君の動きがぴたりと止まった。お、お?これはいけるんじゃないか?私はもう一度声を絞り出した。唐沢君、ちょっと、どいてくれない?ついでに手首を動かすと唐沢君は、名前・・・?と呟いて、その声があまりにも近くて私はびっくりしたのだけれど、唐沢君もいまさらびっくりしたようで私の上から飛びのいてくれた。・・・・もっと早くのいてくれればよかったのに。


「すまん!帰る!」


しっかりとした声の唐沢君はそのままバタバタと帰って行った。足音が遠ざかったのを確認して、私は恐る恐る帽子をあげる。ぐるりと部屋を見回すとやっぱり唐沢君はいなかった。あ、唐沢君、鞄置いていってるじゃん。
私はなんだかよく分からないため息をつきながらずるずると壁にもたれ掛かった。全身が心臓になったみたいにどくどく鳴りやまない。もう二度と唐沢君に酒は盛らない。成人になっても絶対飲ませない。私はそんなことを心に刻みながら唐沢君の帽子を指先でなぞった。




モドル