ああああああ!
私は内心発狂した。内心発狂したっていう表現ってだいぶおかしいと思うけど私の今の脳内の状態を示すならこれ以上の言葉は無いと思う。っていうか無い。
時は文化祭、私はなぜかメイド服を着て、看板を掲げていた。看板には可愛らしい文字で2のAでご主人様達をお待ちしています!と書かれている。待ってねえよ死ね!写真撮ってんじゃねえええ!!あ、ホント、勘弁して下さい。むしろ殺して下さい。殺せ!いっそのこと殺せよ!と私が内心錯乱してるのを知ってか知らずか奴はへらりと笑った。くそおお笑ってんじゃねーよおおおお!!!


「名前ちゃんメイド服、よく似合ってんじゃん」
「あああアリガトウゴザイマス」
「名前ちゃんがメイド服着てるって言うからさー、仕事放り出して来ちゃったよ。まさかほんとだとは思わなかったけどね」
「ソレハソレハ」
「いやーそれにしてもよく似合うねメイド服」


私はスカートよりも長いやたらフリルが付いたエプロンを握りしめて必死に心の中のなにかに耐えた。死んでしまいたい!切実に!よりによってこのセクハラ野郎に見られるなんて・・・!っていうかコイツにちくった奴誰だ!殺す!ていうか殺してくれ!
そんな羞恥に震える私を奴は物色するようにじろじろ見て、スカート短すぎない?やたら完成度高いね、それどこで買ったの?なんて私が答える隙もないほど矢継ぎ早に質問し、そのたび語尾にそれにしてもよく似合うね、と付け加えた。どういう羞恥プレイだよ・・・!


「ところで名前ちゃんがやってるのってやっぱりメイド喫茶?」
「ハイ」
「うわあ、じゃあお帰りなさいませご主人様、とか言っちゃうわけだ」
「マア、ハイ」
「じゃあ今俺に言ってよ」
「は?」
「だから、俺にお帰りなさいませご主人様って言って?」


何を言ってんだコイツは。一瞬素に戻った私に追い打ちをかけるように奴は私に笑いかけた。ねえねえ言ってよ。
だ、誰かこいつを殺してくれ・・・!たのむ、報酬は弾むから・・・!そんなことを願っても救世主なんて現れるわけもなく、目の前のこいつが心臓発作で死ぬわけもなく、私が消え去ってしまうこともなかった。当たり前だ。奴はニヤニヤしながら私を見つめている。純粋に死んでほしいと思う。


「わ、私がそれ言ったら、もうどっか行ってくれます?」
「うんうん、どこへでも行っちゃうよ俺は」
「本当ですか」
「もちろん。俺、名前ちゃんに嘘をつかないことを信条にしてるから」
「本当ですか」
「うん」
「本当に本当ですか」
「本当も本当だよ」
「本当に本当に本当ですか」
「・・・・名前ちゃんってほんっと俺のこと信頼してないよね」


奴が苦笑する。会長のこと信頼してるわけないじゃないですか。冗談はその髪の色だけにして下さい。といっそ言ってしまいたいが、そんなこと言ったらあとが怖すぎる。こいつ絶対根に持つタイプだからなー。とりあえずそんなことないですよーと適当にお茶を濁しながら私はこれからどうするか考えた。


第一候補:逃げる
ああ、でも会長無駄に足速そうだしなあ。捕まったあとが怖そう。却下。
第二候補:素直に言う
・・・・言いたくねー
第三候補:会長を倒す
できないこともないと思うけど、これもあとが怖そうだ。


やはり第二候補しか私に道は無いのか・・・・。くっ、何て屈辱だ。さっきから、ねー早くー名前ちゃーん早く言ってよーとうだうだ言っている今世紀最大語尾を伸ばしても可愛くない男を私は見つめた。正直に言うと睨みつけた。


「お、お帰りなさいませごごごご主人様」


奴がぽかんとした顔で私を見る。私は自分の顔にどんどん熱が集まっていくのを感じた。こんなこと言うのは別に恥ずかしくもないけど、こいつが相手は嫌だ!そんな私を奴は文字どうり間の抜けた顔で眺めていたが、しばらくすると奴は顔をほんのり赤く染め、口元を押さえた。止めろ!照れるな!そういうのがなあ!一番きついんだよ!


「名前ちゃん、可愛すぎ。耳まで真っ赤じゃん」
「うううううるさい!もうどっかいって下さい!お願いですから!」
「はいはい分かりましたよ。あ、最後に」
「は」


私がそう呟く間もなく、奴はあろう事か私のスカートをめくった。
私はあまりのことに呆然として動けない。そんな私をこれまたニヤニヤしながら見つめる奴に、コイツ笑う以外の表情ができんのか?と私は心の中で自分でも分かるくらい場違いなツッコミをいれた。・・・つーか、今コイツ何やった?私のスカートを、え?


「いやースカートの中身どうなってるか知りたくってさー、まあ短パン履いてたからセーフってことに、」
「なるわけないだろこの変態!死にさらせえええええ!」


我に返った私は素早く回し蹴りを決めたが空振りに終わってしまった。くそっ!コイツ意味不明に素早いな死ね!さっきとは比べ物にならない速さで頭に血が昇っていく私に意味不明のカタマリみたいな奴は意味不明に爽やかに手を振りながらこれまた意味不明に颯爽と駆けていこうとした。そうはさせるかああ!!!


「じゃあね名前ちゃん!約束通り俺どっか行くわ!」
「またんかこの金髪!殺してやるうううううううう!!!」



「あ、メイドだ。メイド走ってる」
「ああ、…よくあんな恰好できるな」




モドル