「今日は、随分と帰りが遅かったじゃないか。一体、どこで何をしていたのかね?」 石丸くんは私を壁へ追い込み、私の顔の横に肘を付いて、私の逃げ道を狭くしている。いわゆる、壁ドン、とかそう呼ばれるもののはずなのに、生命の危機を感じるのは何故だろう。 石丸くんの赤い瞳がぎょろりと私を覗きこみ、思わず私は目をそらした。 「何があっても絶対に六時には家に帰るように言ったじゃないか…」 「ご、ごめんね。ちょっと、用事が…」 「どんな用事だね?」 「えーっと…、と、図書館で勉強してて!」 「いや、違うな。君は学校が終わるとすぐに僕に見つからないよう周囲を警戒しながら苗木くん兄弟の二人と5時17分にファストフード店に入り、しばらく談笑。そして6時04分に一度帰ろうとするも兄弟に止められ、結局6時42分にファストフード店を出て、小走りに7時10分に帰宅…。そうだろう?」 「なっ、なんで知ってるの」 「愛の力だ。それより、嘘はよくないな」 「…えっと、」 「…何も、僕は君を責めているわけじゃないし、別に浮気を疑っているわけでもない。ただ君が心配なんだ。君のことは全て把握していたい」 上目遣いで石丸くんの顔を覗き見ると、石丸くんは本当に心配そうに、眉を八の字にして私を見ていた。胸がきゅんとして、それからじわーっと暖かくなる。石丸くんは、本当に私を好きでいてくれている。私は石丸くんに悪いことをしてしまったな、と少し反省した。私は少し躊躇したあと、恐る恐る喋り始めた。 「じ、実は…、クリスマスに、石丸くんに何をプレゼントしたらいいか相談してて…。その、門限を過ぎちゃったのはホントに、ごめんなさい…」 「……なんだ、そうだったのか!」 石丸くんは一瞬ぽかんとした顔をした後、本当に安心したように笑って、私から離れた。私も、少し安心する。あの空気と距離は、やっぱり心臓によくない。 「ハッハッハ!!すまなかったな、こんなことをして。怖かっただろう」 「う、ううん、大丈夫。私が石丸くんを心配させちゃったのが悪いんだし…」 「いや、僕も君を縛りすぎたのだ。これを教訓として、これからは門限を6時30分としようッ!!」 「本当っ!?ありがと、石丸くん!」 私は恋愛経験がないし、彼氏と彼女の関係がどんなものか分からない。だけど、石丸くんも幸せそうだし、多分、これが私たちの恋愛の形なのだろう。 「それに、今度からそんな誤解もないように盗聴器も…」 「ん?石丸くん、なんか言った?」 「いや!なんでもないさ!」 (ソクバクするイシマル) |