○月*日
朝起きると、石丸くんの左腕が名状し難い冒涜的な肉塊になっていた。なにを言っているか分からない?大丈夫私も分からない。だが事実だ。SAN値がガリガリ削られてやがる。そんな私の混乱とは裏腹に、石丸くんは無事だった右手で頬を掻き、朗らかに笑った。
「右腕じゃなくてよかった。利き腕は困る」
もしかして、これは夢なのかもしれない。


○月!日
石丸くんの左腕が名状し難い冒涜的な肉塊になっても日常に変化はなかった。所々添え木した上に左腕全体に包帯を巻き、石丸くんは普通に登校している。その姿はどっからどう見てもただの骨折した人であり、大和田くんや不二咲さんがとても心配していた。私も心配だ。一回、間違って掴んでしまった彼の左腕は腐った肉のように柔らかく、おおよそ、生物に付属してはいけない感触だった。吐き気がする。そんなものを腕につけて、石丸くんは何故平気でいられるのか。もしかしてもう狂ってしまっているのか。それも、仕方がないと思えた。


○月@日
今日になって、石丸くんが初めて彼のソレについての話をしてくれた。なんと、彼には左腕がそうなってしまう心当たりがあったらしい。その心当たりについては教えてくれなかったが、石丸くんはそれについても、不便ではあるが不満はない、と言い切った。君がそばにいてくれるからだな、と。嬉しかったが、それ以上にゾッとした。彼は、こんなことを言えてしまう人間だっただろうか。私にはあの忌々しい左腕が、彼の脳に浸食し、内臓を蝕み、頭の先からつま先まで、まるごと彼を彼じゃないなにかにしてしまったようだ、と感じた。


℃月∝日
私の目がおかしくなってしまったのか、石丸くんがおかしくなってしまったのか。
石丸くんの左腕が名状し難い冒涜的な肉塊になって、二週間と三日。石丸くんの右目が、なくなってしまった。ありとあらゆるものを中途半端にミキサーにかけたような糸引くグロテスクになるのではなく、なくなってしまった。まるで元からそこには何も無かったかのような空洞が石丸くんの右目があったところに埋まっている。今は眼帯を付けて登校している。十神くんも含むクラスのみんなが石丸くんを心配していた。だが、石丸くんは至ってあっけらかんと、視野は狭くなったが、左腕が無くなった時よりは不自由は無い、とのたまう。
石丸くんは時々、異様な笑顔で笑うようになった。
本当に怖いんだよ。石丸くんが石丸くんじゃなくなってしまうことじゃなくて、石丸くんが、こんなことになっても全然動揺しなくて、それどころか、石丸くんが石丸くんじゃなくなるたびに、嬉しそうに笑う君が怖いんだよ。でも、私は石丸くんを嫌いにはなれない。
怖い。


−月−日
日を重ねるごとに、ぃ石丸く?はその形を保てなくなっていった。もう学校には行っていない。今は私が超高校級の才能で稼いだお金で生活している。だが、石まままままんは人生で今が一番幸せだと言った。ギザギサの歯が覗く悪魔の口でそう言った。なら、私も幸せかもしれない。だって■■■■の幸せは、私の幸せだ。

ただ猛烈に、何かを忘れている気がする。


(何故あなたは死ぬか)




お出口はこちら
2013.11.29~2013.12.06

×