石丸が裏庭で拾ったのは白い、少女の腕だった。意外にも、まだ生ぬるく体温が残っている。どういう仕組みになっているのか、石丸はしばしそれを眺めたが、気分が悪くなってきたので止めた。本当ならばこのままそれを捨てて、見なかったことにしてしまいたがったが、それは彼の責任感が許さず、血を廊下に垂らさないように常備しているハンカチで切断面を覆うと教室へ急いだ。急いでいると言っても競歩である。こんな時でも超高校級の風紀委員は廊下を走らないのであった。 「──やっと、君の右腕が見つかったぞッ!!」 そう叫ぶと、薄暗くなった教室に佇む少女が、伏せていた顔をゆっくりと上げた。少女は血まみれていて、右腕が欠けている。シチュレーション的にはホラーにもほどがあるが、大分視覚的には見れるようになったと石丸は思う。さっきまでは右足もなかった。あと、少し脳味噌が出ていた。 「よかったぁ!もう左利きに替えようかと思ってたよ!ありがとね石丸くん!」 しかし少女は全く気に留めていない様子で背後に花が飛ぶような笑みを見せた。石丸はとりあえず教室の電気を付け、少女に腕を手渡した。 「あ、ごめんね。ハンカチ汚しちゃって。洗って返すよ」 「大丈夫だ。血液の汚れを落とすのには大分慣れたからな。…ではなくッ!!全く、今日はなにをどうしてこうなったんだ…ッッ!!」 「日誌書くのに残ってたら…、ちょっと、ね?」 「ちょっと!!?ちょっとだとッ!?!?どうちょっとしたらそうなるんだッッ!!!」 「別に特別変わったことは」 「君の身体は人より少し脆いんだ…!!気を付けたまえ!!」 「はーい。よいしょ!…、さあ帰ろ、石丸くん!」 「…毎回、思うのだが…、そんな軽いノリで腕がくっ付いてしまっていいのか?」 「平気平気って!!」 「こ、コラ!ちゃんと地面を見て歩きたまえ!!またバラバラになりたいのかッ!?」 「ならないならない!って、うわっ!?」 言った矢先のことである。少女は自分の血に盛大に足を滑らせると、体勢を大きく崩した。このままだと、また脳髄を撒き散らすことになってしまう!石丸は反射的に少女の腹に腕を回し、そのまま抱き留めた。身体が密着する。少女の身体は予想以上に柔らかく、細い。そして血の臭いがした。これではもげてしまっても仕方がないかもしれないと石丸はぼんやりと思った。 「あ、ごめん」 少女が不意にそう呟いて、石丸は心臓が飛び出るのではないかと思った。ぶわっと顔に熱が集まり、急いで少女から離れようとして、そこで、固まった。嫌な予感がする。嫌な予感がして、石丸は恐る恐る視線を落としていく。そして、 「〜〜〜ッッ!!?」 腸だった。ピンク色の腸が少女の腹からこぼれ落ち、石丸の腕に絡みついていた。生暖かい血が、石丸の指にぬるりとまとわりつく。石丸は声にならない悲鳴を上げ、弾かれるように少女から離れた。 「あははっ、ごめん出ちゃった!今しまうね!」 場違いに明るい声が最早血みどろスプラッターな殺人現場になっている教室に響く。 石丸は血塗れてない方の手で頭を抱えた。血の気が引いて、吐き気がする。今すぐ手を洗いたいし、鼓動は馬鹿みたいに早い。 なのに、何故!僕はもう一度、彼女を抱き締めたいと思ってるんだ!! (彼女はアンデット) |