・石田+大和田



「なあ大和田ァ、石丸が学校でなんて呼ばれてっか知ってっかァ?」
石丸は左手を胸の上で握った。そして、大和田が始めて見る、心底辛そうな顔で吐き捨てた。
「コイツなぁ、″天才″って呼ばれてンだよ」
大和田は、石丸が大和田を憎んでいたとか、目の前の訳の分からないモノがいる以上の、今日一番の衝撃を受けた。
大和田は石丸と兄弟の契りを交わす前、いけ好かない優等生だと思っていた頃にその言葉を口にしたことがある。その時石丸は激しく怒り、嫌悪を露わにした。自分のためにはあまり怒らない石丸の数少ない地雷ワードだ。それが…、なんで、そんなことになってる。
「オイオイ、何ショック受けたみてーな顔してんだよ。全部テメーのせいじゃねーか!」
石丸が怒鳴り、大和田を睨み付けた。炎が揺らめく。
「テメーがあっちで馬鹿みてえなことやっちまったせいで、石丸は努力を止めちまったんだ!クソみてーな世界に希望を持てなくなっちまったんだ!!今はただゾンビみてーに毎日を繰り返して、前の自分と同じことをやんのにめちゃくちゃな苦痛を感じてる!!今は風紀委員もやってねぇし勉強もしてねぇ!キチッと休まず受けちゃいるがいつも授業も上の空だ!!」
「は、それでなんで、天才って呼ばれてんだよ」

「努力したからだよ!!!!」

「死ぬまでの十何年間、石丸はずっと努力してた!!高校の勉強はおろか大学レベルだって殆ど完璧だったし、あの悪夢の中でさえ石丸は努力を止めなかった!!!
そんで今は何でこんな生活を繰り返してンのか!!その努力を、テストの点ばっか取ってもどうにもならねーってことを、テメーが石丸に刻み込んじまったからに決まってんだろうがーッッ!!!」

固まる大和田を石丸は見下す。
否、

「石丸清多夏は、死んだ」

″石田″清多夏は千円札を机に力任せに叩きつけ、大和田の元から去っていった。


漁ったら見つかったもの。
もしも転生したら石丸くんにはもっと生きやすい人間になってほしい。だがそれはきっと石丸くんではないのだろうな。


石丸くんが凡才を止めた話。
20140607