「い、石丸くん…、」
石丸くんは私の向かいで食後のお茶を啜っている最中で、私が声を上げると不思議そうに首を傾けた。
「大丈夫…、なの?」
「ん?なんの話だね?僕は至って健康体だが」
石丸くんはお茶をもう一度啜ると湯飲みをテーブルの上に置いた。コン、と堅い音がする。馴染みのある雰囲気、日常、いつもと何も変わらない石丸くん。私はなんとなく喉が乾き、さっきから手を付けていなかったお茶を一口飲んだ。
「本当に大丈夫?無理して…、るよね。部屋で休んだ方が…」
「?? さっきから君は何を言っているんだ。僕はそんなに病弱に思われていたのかね?心外だぞ!」
「いや!じゃなくて、」
私は石丸くんから目をそらし、下を向く。そして小さい声でこぼした。
「だって…、大和田くんが、しんじゃったんだよ…」
私は石丸くんと大和田くんが喧嘩してるのを何回か見たことあって、だから、二人が仲良くなったときはとても嬉しかった。こんな状況でも人は仲良くなれるんだって。いがみ合っていた二人だから特に。
大和田くんと比較的よく話していた私は石丸くんへの悪口も何回か聞いたし、二人が仲良くなってからは石丸くんの自慢話も聞かされた。その時は若干困ったのだけど、今思えば、とても、幸せなことだった。酷く胸が痛む。思わず私は手首に爪を立てた。
石丸くんはきょとん、とした顔をして、それから一点の曇りもない笑顔で、笑った。
「ああ!そうだな!大和田くんは死んだな!!」
手が震えてくる。私は手に込める力を更に強める。大丈夫大丈夫、私が取り乱してどうするの。石丸くんは混乱してるだけで、あれだけ仲がよかったんだから。そこで、ふと私は思い出す。バッと顔を上げると、石丸くんは朗らかな顔で私を見ていた。
「ねぇ…、石丸くん、石丸くんって…、大和田くんのこと、兄弟って、そう呼んでなかったっけ」
石丸くんはあっけらかんと答えた。
「僕に兄弟なんていないぞ。僕は一人っ子だッ!!」
頭が真っ白になったような気がした。ダラダラと冷や汗が流れて、何かの渦が全身を駆け巡りどうしようもなくなる。私はギュッと目をつむり、その衝動をじっと耐えた。
石丸くんはうむ、と頷き苦々しく言葉を続ける。
「全く、あんな珍走団なんてやっているから殺人を犯すのだ。全く根性がなっていないぞ!!僕が指導を施す前に死んでしまったのが、ただただ心残りだ…。彼も改心していれば…。僕の、指導不足だ」
石丸くんは本当に心苦しそうに唸った。その表情は冗談を言っているようではない。眩暈がした、が、これで一つ分かった。石丸くんの記憶は、大和田くんと仲良くなったことが、すっぽり抜け落ちている。という、苦しい事実が。
「…、泣いて、いるのか?」
石丸くんが眉を寄せ、困ったように私を見た。
「そうだな、君は大和田くんと仲良くしていたからな、無理はない。全く大和田くんも…、」


「兄弟も不二咲くんでなく、僕を殺せばよかったのに」


「…ね、ねえ、石丸くん…」
言葉が震える。それどころか全身が、寒いわけでもないのにガタガタ震えている。歯が噛み合わなくてカチカチ鳴る。
「ん?なんだね?」
石丸くんは普通だ。いつもと変わらない。
「石丸くん、石丸くん…」
「だから、なんだね?何度も呼ばなくても僕はちゃんとここにいるぞ!!不二咲くんと兄弟とは違ってな!!」
「石丸くん…!」
「ああ、だから暴走族は駄目だな!死んでも人に迷惑をかけて!あんな馬鹿のために君が心を痛める必要はないのだ!!兄弟も秘密を隠したいならば僕だっていくらでも協力して、いっそ死んでもよかったというのにカッとなってなんて一番やってはいけない動機で不二咲くんを殺してしまって…。きっと、不二咲くんに誑かされたに違いない!!兄弟がそんなことするに違いないそうだきっと兄弟を殺そうとしてわざと挑発して、兄弟もまんまと罠にはまってしまったのだ。こんなことなら僕が殺しておけば、兄弟も無事卒業できたのに。殺せばよかった、あの害悪を。僕が粛正してやれば、不二咲くんも死なずにすんだのに。…失敗したな。反省しなくてはならないな!!ハッハッハッハ!!!」
石丸くんは手を広げいつものようににこやかに笑った。そして唐突に、
「だが、君も悪いんだぞ?」
石丸くんが顔を寄せ、そのぎょろりとした瞳で私をのぞき込む。私は思わず小さく悲鳴を上げのけぞった。石丸くんは笑みのひとかけらも無い顔で真っ直ぐに私を見つめる。
「なんだその顔は、君だってなんにも出来なかった、いや、しなかったじゃないか。君は兄弟を、不二咲くんを助けられる行動を取れるかもしれなかったなのにしなかった。出来なかったんじゃないしなかったんだ!やはり君も努力しない天才で、だから人を見下し、見捨てたのだ!!兄弟を助けられたにも関わらず助けなかった!!天才の怠惰だ!傲慢だッ!!!」
「違う、僕だって分かっている。僕が全て悪いんだ。みんなを指導する立場で、兄弟と誰よりも近くにいたにも関わらず僕はそれに気付けなかった。僕の努力不足で、努力が足りなかった」
「ならば?どう努力すればよかったのだ?僕はやるべきことは全てやっていたはずであああああだから僕は凡愚なのだ僕のせいで兄弟が死んだ不二咲くんが死んだ舞園くんが江ノ島くんが桑田くんが、」
「そもそも僕がこの学園内に入るときにちゃんと安全確認していればよかったのだ!!そうすればみんな巻き込まれずにすんだのに、はは、なんだ、最初っから全部僕のせいじゃないか!!」
「そもそもこの学園に僕みたいな凡愚が来てよかったわけがないんだ。兄弟だって陰では僕を、凡人である僕を嘲り笑っていたに違いない。天才なんてそんなもので、僕がただの凡才であったから、だから兄弟はいなくなってしまったのだ」
「なあ、」
石丸くんは勢いよく立ち上がり私の胸ぐらを掴んだ。椅子が後ろに倒れ耳を塞ぎたくなるような音がする。
石丸くんはそれも聞こえていないように、私を見つめる。その瞳はただただ真っ直ぐだ。
「お前のせいだぞ」
石丸くんは笑った。泣きそうに、歪んだ笑みだった。それから今度は全くの無表情で、
「僕はどうすればよかった」
そうこぼした。
「なあ、助けてくれ。僕はどうすればよかったんだ?いくら考えても分からないんだ僕はどうすれば兄弟を助けられた?みんなを救えた?天才である君なら分かるのだろう?教えてくれ、頼む。教えてくれ。兄弟を、助けたいのだ。頼む、何でもするから…、助けてくれ。助けてくれ、頼む、お願いします、お願いしますから…、助けてください、誰か……」
私の襟首を掴む手から力が抜けていく。最早私に縋るような姿勢で顔を伏せる石丸くんはとても小さく見えて、そう言えば、石丸くんってただの高校生だったんだなあって、ぼんやり思った。テーブルの上にぽたぽたと水滴が垂れ、静まり返る食堂の空気を低い嗚咽が揺らす。
私は、逃げたかった。今すぐこの場から消え去ってしまいたかった。ズキンズキンと心臓が胸を叩く。頭の中のごちゃごちゃな感情が私の正常な思考回路を蝕んでいく。無意識に、私は震える手を伸ばし、彼のそれと重ねた。彼の手はひどく冷たくて生きている人間の体温だとは思えなかった。私は辛かった。辛くて辛くて、いなくなってしまいたかった。いつから泣いていたのか。涙が頬を伝う感覚がある。私は無理に笑った。無理に優しい声を作った。
「石丸くん、逃げていいよ」
石丸くんの肩が少し跳ねる。私は言葉を続ける。
「私が…、殺してあげる」
石丸くんはすまない、とぽつりと呟いた。それから何度も何度もすまないすまないって。やだなぁ、石丸くん、こういう時は、ありがとう、って言うんだよ。


石丸くんって攻撃する対象は全部自分になりそうなイメージです。典型的な鬱の思考回路。おげぇ。実際コロシアイ学園生活が無くてもどっかで破綻するような気がしてます。アカン、私石丸くんホント舐めてるわ。ベロベロだわ。石丸くんそこまで罪木ちゃん寄りの思考回路じゃないんですけど!いい加減にしろよ!
あとどうでもいいですけど、石田がものすごい攻撃的な人格でみんなのこと罵りまくってクソビッチとか言って中指立ててたらどうよう萌える。それで夜も眠くないし寝れないし寝たくないので夜通し見回り。食事もとる必要性を感じないから、とか言ってまったく取らなくてどんどんやつれつきてるけど気力でなんとか持たせて、燃えすぎる蝋燭みたいに命すり減らしてんぜぇって感じに生活してたら私が燃え尽きる。


話通じない系石丸
20131221