「君、生きてて恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいと思ったことは、まあ、一回もないべ。あったとしても忘れちまった」
「私、恥も道徳も無い人間ってどうかと思う」
「そりゃどうも」
「…まあ、だからこそ、君にお願いがあるんだけど」


私は彼の太股の上に手をやり、媚びるように上目使いをする。彼は動揺することもなく、この状況を面白がっているようだ。まるで、こうなることを知っていたかのように、


「私を、殺して」
「そりゃあ無理だべ」
「なんで」
「なんでって…、俺はまだ死にたくないべ。リアルな話、俺は自分の能力を自覚してるべ。そんでもって、霧切っちや十神っち、苗木っち達を出し抜けるとも思えねぇ。馬鹿だからな」
「まあ、確かに君は馬鹿だよ。でも、私がいるじゃない」
「どういうことだべ?」
「アリバイ作りぐらい、やってあげるって言ってんの。別に、全部君に頼もうなんて思ってないさ。君はただ、私を殺すだけでいい。面倒なことは全部私がする。自分で言うのもなんだけど、私そこそこ頭はいいんだ。裁判でボロを出さなければ簡単に外に出られるよ」
「どうしてそんなに俺に親切にしてくれんだべ?」
「私のことを殺してくれるなら、そりゃあもう、親切にもなるさ。私、義理堅いので有名なんだ」
「じゃなくて、なんで俺を選んだんだべ?」
「霧切ちゃん、苗木くん、朝日奈ちゃん、大神さん、不二咲ちゃん、大和田くん石丸くん、山田くん、腐川さんは、論外。多分みんな乗ってくれないし、私のこと報告して、死ににくい状況になったら困る。残りのセレスちゃん、十神くん、と君。なら、君が一番かな、と思って」
「なんでだべ?俺、危ない橋は渡りたくねぇタイプなんだべが?」
「君はここから出る選択肢に、”人を殺す”がある。それをやらない理由は、”危ない橋は渡りたくない”から。…危なくない橋なら渡るんでしょう?」
「ふぅん、なるほど。確かにそうだべ。ただ…」
「ただ?」
「嘘だべ?」
「…なにが」
「俺を選んだ理由、どうして俺に親切にするのか。よく出来てるけど、嘘だべ?」
「なんで、そう思うの」
「占い」
「…、あっそ。…ただ、今回は七割の方だったみたいね」
「あと、俺のこと、本当は外に出す気なんてないべ?」
「、それも占い?」
「いや、流石の馬鹿の俺でも、それくらい分かるべ」


葉隠は慣れた仕草で私の髪を解くと、ドキリとするほど艶めかしく笑った。


「だって、**っち、俺のこと嫌いだから」


私は薄く息を吐き出すと、目を伏せ、葉隠の肩に額を押しつける。線香みたいな匂いがした。葉隠は今度は色気のかけらもなく私の背中をバシバシ叩き、快活に笑った。


「まあ!生きてればいいことあんべ!**っち!!」
「…痛い」




葉隠の方が一枚上手
20131105