声は、もう何日も出していなかったみたいに掠れていた。苗木くんは悲しそうな、それでいて真っ直ぐに私を見つめる。
実を言うと、私はこの彼のまなざしが嫌いだ。ずっと嫌いだった。私の奥の、暗い、汚い、気持ち悪い感情を浮き彫りにされるようで、心がざわざわ落ち着かない。不安で、いらいらする。
苗木くんはまるでじらしてるようにゆっくりと、その唇から、憂うように、しかし芯が通った言葉を吐き出す。
「───君が…犯人、なんだよね」
確信。
その瞳も、語調も、全てがそう。私の心臓をちょうど突き刺した。一瞬の、電撃にも似た衝撃と、吐き気を催す動揺。一転、それを完全に塗りつぶす、諦め。私はとうとう直視できなくなった彼から目を逸らす。指先が冷たい。思わずついた薄いため息は灰色で、まるで私の腹の純黒の感情を6:4ぐらいで空気と薄めたようだった。
言うべきことは、特に思い当たらない。
「…」
彼の推理は、ほぼすべてにおいて正しい。逆上するにも、時間が経ちすぎてしまった。犯行を、素直に認める?それが、一番正しそうだ。
そう、私はただただ正しくありたかった。
「…ごめんなさい」
するり、と私の口からこぼれ落ちた言葉は、意外にも透明で、法廷の空気を、まるで水面に落ちた滴のように揺らせると、苗木くんの顔を歪ませた。
私はもう何も言えない。さっきの謝罪だけが、最期に私に残った正義であったからだ。あとはもう、犯した罪と、死の恐怖に脅える希望の絞りカスでしかない。私には、そう思えた。




苗木くんに断罪される
20131105