「喜べ。貴様を、この十神白夜の嫁にしてやろう」


人間って本当に驚いた時は声も出ないらしい。そう、ぼんやりと思う。
十神とは、高校の同級生だった。それだけだった。強いて言えば高校の時クラスがずっと同じだっただけ。部活も違ったし、勿論グループも違ったし、冗談を言い合ったりなんて一回も無く、必要最低限の会話をしたかも危うい。大学生になってからは、接点も当然無いし、一言で、親しくない。
それが何故、突然黒塗りのリムジンで拉致された挙句、窓から見下ろすネオンが綺麗な超高層ビルの貸切高級レストランで私は彼にプロポーズされているのか。


「…私、彼氏いるんだけど」


結構いい人で、いい関係で、将来を誓い合った恋人がいるんですけど。全く力の無い声で呆然と呟く。上品なBGMが掛かる中、明らかに高そうな婚約指輪をテーブルの上に置いた十神は私の言葉に片眉を釣り上げると、めんどくさそうにこう言った。


「アレのことか。殺したぞ」
「…え?」
「そんなことより、式はいつにする。女は記念日やらジューンブライドやらにこだわりがあると聞くから日付は貴様が好きに決めていい。俺はいつでも構わん。早いに越したことはないがな。ああ、あとこれにサインしろ。このあとすぐ出しに行く。俺の枠はもう埋まっている」


そう言うと十神はウェイターから茶色のフチの薄い紙を受け取り、私の目の前に差し出した。婚姻届けだと、ひと目でそう分かった。
頭から、末端から、サァと血が引いていく。本気だ。この人は本気だ。そう、感じてしまったからこそ、
やだ、もう、頭が痛い。気持ち悪い。


「…殺したって…、さっき、殺したって言ったよね?…嘘でしょ?」


嘘と言ってください。お願いしますお願いします。
十神は少し考え込むような仕草をして、それから少ししてさっきからそばに控えていたウェイターに「人払いをしてくれ」と一言。嫌な汗が滲む。唇が震える。身体の感覚がなくて、ただ頭だけがざわざわうるさい。
十神は中指で眼鏡を押し上げると真剣な表情で私を見つめた。


「貴様は覚えていないだろうが―――俺たちは前世で恋人だったんだ」


そして呼吸が止まった。


「貴様は傾きかけた国の姫で、俺は大国の王子だった。初めて出会ったのは貴様の国の城下で、俺は正体を隠し、資源の豊富な貴様の国へ偵察に向かっていた。そこで俺たちは偶然一瞬目が合い、その一瞬だけでお互い恋に落ちた。運命だといっても過言ではない。紆余曲折あったものの俺たちは結婚した。国を挙げて行った結婚式は三日三晩では足りぬほど盛況し、貴様は幸せだと泣いていたな。そののち、貴様の国は俺の国吸収され、トップに立った俺が上手く資源を運用し完璧な政治を執り行ったおかげで国は他に類を見ない大国となった。時々しょうも無いことで喧嘩したりもしたがなかなか幸せな生活を送っていたよ。俺たちは輪廻転生を越えて再び巡り合い結ばれるはずだった。あの悪魔がいなければ。実は貴様は前世あの悪魔に殺されたんだ。俺はそいつを倒し、貴様によく似た息子に王位を授けてから自らその生涯に幕を下ろした。また貴様と結ばれる日がくると確信して。もちろんそうに決まっているだろう。俺たちは運命で繋がっているんだ。実際に会えたことだし、これで俺たちの愛は証明されたと言うわけだ。貴様の隣にいたヤツをみて一瞬で解った。あの悪魔は姿を変えて今世にも現れ、お前を洗脳し、誑かし、弄び、前世に劣らない残虐さでまたも俺とお前の仲を引き裂こうとしているのだとな。許しがたい蛮行だ。よって、俺直々に手を下した。ああ、それまでに色々と準備がかかってしまってな。万全を期したかったのもあるが、迎えに来るのが遅くなったことは詫びよう」


十神は表情を変えず、つかえることもなく、スラスラと妄想を語った。ただひたすら、おぞましい。全身に鳥肌がたったのが分かる。
十神は少し表情を歪め、「これで思い出すかと思ったが…あの悪魔め」と吐き捨てるように言った。


「それならば、貴様はあの男が生きているとしたらどうする?」
「…、……」
「あの男を殺したというのは、嘘だ」
「……ほ、んと…?」
「ああ、本当だ。あの男は生きている 。信じられないのならリアルタイム中継の病室を見せてやろう。見るに耐えないと思うがな。まあ、綺麗に顔は残したから、恋人のお前であれば認識できるだろう。舌はあるし声帯も残したから声を出すことも出来る。確かに、あの男は生きている。…憎たらしいことにな」


彼は、まだ死んでいない。涙と絶望に濡れた瞳が少し希望に輝いたのが分かった。


「貴様が俺の愛しい妻であるなら、俺はそね願いならばなんでも叶えてやりたいと思っている。…どうすればいいのか、いくら頭が緩い貴様でも分かるな?」
「…」
「フン、俺も脅すような真似などしたくはないが仕方がないだろう。貴様は洗脳を受けているんだ。結婚すればすぐに解ける。前の記憶を思い出す。俺たちは永い時を越え愛を取り戻すのだ。貴様は洗脳のせいであの憎き悪魔を愛しい恋人だと思い込まされているだけにすぎない。心配するな、あんな凡人のことなどすぐに俺が忘れさせてやる。あんななんの才能も財も無いクズが俺の妻を誑かすなど万死に値するが、貴様は甘すぎるほど甘いからあの悪魔を殺すのは可哀想とも言うかもな。それでも貴様があの男に操を立てたなどありもしない妄想でごねるなら…アレは死ぬ。死ねば呪いは解けるからな。お前の言葉で、お前の判断で、お前の自己欺瞞で、仮にも将来を誓い合った恋人が死ぬのだ」


微妙に未完ですが思い切って公開。五万打した時にダンガン無印男子勢(ただし山田は除く)で、全員最終形態鬼畜なシリーズを書こうと思っていた名残です。以下長文かつ妄想注意。
この電波十神くんは頭がおかしいので、しょっちゅう言動が矛盾したりします。自分の理想に反することは許せません。でも自分ではそれに気付かず、上手いこと理由を付けて妄想を正当化します。また、姫と前世越しの恋愛する俺カッケーなので特にヒロインちゃんのことが好きというわけではないです。ただたまたまそこにいたから、都合が良かったから選ばれました。不運ですね。参考は某「お兄ちゃんどいてそいつ殺せない!!」。まあ、十神くんはお金もあるし頭も良いので、もうどうにもならないと思います。十神夫人として死ぬまで軟禁生活です。あんまり逆らうと悪魔払いとして殺されるムリゲー。
と、ここまで妄想したのに何故完結しなかった…。
ついでにシリーズの内容も書くと、十神が妄想電波、石丸くんが加虐性変態ドMストーカー、大和田が典型的なメンヘラ、桑田が愛の無い暴力野郎で、葉隠が金目的なヒモ(通常運転)、共依存ヤンデレ不二咲ちゃんに四肢切断され、過保護系キチガイ幼なじみ苗木に優しく監禁されるという。これはヒドい。そもそもテーマが後味が悪い愛の無い鬼畜という私の救えなさ。アーメン。
ただメンヘラ大和田は今妄想してもキュンキュンするし、結構みんな好きなのでいつかちゃんと書きたいなと思うだけ思ってます。
誰かメンヘラ大和田ください。


十神が電波
20130913
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