石丸くんは制服を脱がない。それは希望の象徴であったり、過去への懐古であったのかもしれない。しかし、今やあらゆるもので薄汚れているソレを、私はおぞましいとしか思えなかった。お疲れさま、そう何でもない風を装って声を掛ける。緩慢な動きの中、彼の瞳だけがぎょろりとこちらを向いた。
ゾッとした。
澱んだ赤色は危うげな光を孕み、餓えた獣のようにギラギラ輝いている。その顔が、歪んだ。


「ああ、なんだ君か!まさか起きているとはな!まったく!こんな時間まで起きてないで早く寝たまえ!明日もやることは尽きんのだからな!」
「うるさいよ石丸くん、もう夜なんだから」
「あぁすまない、そうだな。僕としたことが…。まあ、ともかく君は早く寝るべきだ!…酷い顔をしている」
「…石丸くんほどじゃない」
「僕は…いいんだ」
「…今日は石丸くんを待ってたんだ」
「僕を?何故?」
「……石丸くん、もうさ、人殺すの止めてよ」
「それは無理だ」


きっぱりとした口調だった。やっぱりなぁ、と思いつつ私は胸を締め付けられる思いがして無意識に左腕を握る。しかし左腕に感覚は無い。前に絶望してしまった人にナイフで神経を切られ、それ以来動かない只の肉の塊となってしまったのだ。そして、その人を殺したのが、石丸くんの初めての殺人。私が居なかったら、石丸くんが人を殺めることは無かったかもしれない。
黙りこくった私に石丸くんは続ける。


「誰かが、やらなければならないことなんだ。……それに僕は…絶望した奴らが、憎い。…憎くてたまらない」
「…」
「最近は夢にも見るんだ。…平和な日常に突然奴らが現れ、僕の大切な人たちを…君を殺す。僕は何も守れない。…そんなの、夢の中だけで十分だ」
「…」
「奴らは、一匹残らず駆逐する」


そう吐き捨てると、石丸くんはホールを抜け、ほの暗い廊下へ歩を進めた。硝煙の香りを纏うその背中はいつか見た時よりも遙かに傷だらけで、その身体には重すぎる闇を背負っているようだった。
私はふと、怖くてたまらなくなる。石丸くんはきっと、私が死んだら駄目になってしまう。かといって、平和になるのも恐ろしい。人殺しは罰せられる世の中で、果たして石丸くんは幸せになれるのだろうか?潔癖の制服を血糊で汚し、殺すほど人を憎んでしまった彼が?
うなだれた私の視界で感覚の無い左手に水滴が付いていた。私の涙のようだった。あぁ、辛いなぁ。


お察しの通り石丸くんに「駆逐してやる」て言わせたかっただけです。進撃の巨人一話だけ見てみたんですが面白そうですTSUTAYAで漫画借りて見たい。
夏は好きなんですが暑すぎて筆が進まないんですよね…。ちゃんとした最新はそのうち…。


希望狂い石丸
20130710
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