いつの間にか眠ってしまっていたようだ。まどろむ意識の中、ふと瞼に柔らかい感触があって、そのむず痒さに目を開ける。すると、


「ヒッ」


十神の顔が至近距離にあった。な、なな。寝起きの頭は真っ白。思考回路はショート寸前である。口を開閉させることしか出来ず、十神の憎たらしいほど整った顔を、伏せられた長い睫毛を呆気にとられて見ていると、十神がそこでようやく状態を起こした。何らかの重圧から解き放たれたように呼吸が楽になる。な、なんなんだ。意図を探ろうと十神を見つめる。すると十神は―――――ものすごく嫌そうな顔をした。


「な、何…」


なんでそんな嫌そうな顔してるの、とか、なんで顔があんな至近距離にあったの、とか、聞きたいことが多すぎてどれから聞けばいいかさっぱり分からない。そんな私の存在を全て無いものにしたように十神はそのまま机にあったいくつかの本を持つと立ち上がった。そして扉に手をかけて一言。クリーニングして返せ。意味が分からない。彼を引き止める言葉も出ないうちに十神は部屋からいなくなってしまった。

とりあえず辺りを見回してみる。本まみれだ。そうだ、私、図書館のソファーで寝ちゃったんだっけ…。節々の痛みに顔を歪めつつ私はようやく状態を起こした。すると、私の体から何かがずり落ちた。寒気がじわりと私の身体を侵す。これは…黒い布…?それを恐る恐るつまんで持ち上げてみる。瞬間、私の頭から眠気が吹っ飛んだ。こ、これ、十神のスーツじゃん…!高いヤツ!そこで彼の言葉を思い出す。"クリーニングして返せよ"
私の頭からはもう瞼の上の柔らかい感触なんて吹き飛んでいて、これからどうするかを十神いわく足りない脳みそで必死に考えていた。その頃十神があまりに自分に似つかわしくない行動を何故してしまったのか見つからない答えに相当不機嫌になり、その苛立ちを全て私にぶつけようとしていたなんて、分かるはずもなかったのである。


13/04/23~13/04/30 拍手小説1
キスの格言:瞳なら憧憬


言動の不一致に戸惑う十神
20130515
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