此処に眠る


骨は拾ってやるなどお決まりの常套句に意義など感じたことはなかった。しかし今人の死を前にしてその人の人生は真っ白な坪ひとつに納めきれてしまうものなのだと思うと言い切れない感情で胸がぎりぎりと押し潰されるような感覚を覚えた。

「おじさん、長生きだったな」
「ノクト。今日はありがとね」
「別にいーよ。お忍びだったからなにか出来たわけでもねーし。」
ノクトはからっと薄く笑った。セレナの祖父は国のショップを経営していてノクトは幼なじみのイグニスを唆しつつ街のショップへよく足を運んだものだった。セレナともそこで出会った。祖父はノクトと出会った頃からすでにおじいちゃんだった。それからノクトが二十歳になったわけなので十年来のお客様なのである。祖父はちいさなノクトに若い頃の旅の話をよく聞かせた。ノクトのお父様である国王陛下もよく自らの旅の話を聞かせていたせいか、ちいさなノクトはよくおじいちゃんに旅の話をせがんだ。家族にとっては耳がタコになるくらい聞かされた話だったがノクトにとってはどれもこれもが未知の場所ばかりで目を輝かせて聞いていたものだ。
おじいちゃんの葬儀は兼ねてからおじいちゃんが大のお気に入りだった東の国の作法で行った不馴れなものばかりだったが、恙無く終えることができ、ノクトも城から会いに来てくれた。

「俺もこれから旅にでるんだ」
「私の骨はノクトに拾わせないから、ノクトも私にそれをさせないで」

「お前は俺が守る
どこにいても、どんな場所にいても」

心のありかは自分で決めた
ノクトと別れたあの日を最後に私はノクトに会うことはなかった
隠した恋心は胸に抱いたまま誰にも見とがめられることなくここで殺していく

ここが私の墓標であるように


  
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