矛と盾


「疲れてる?グラディオ」
「ウィル。起きて大丈夫なのか」
「昨日はタイタンと戦ったと言うじゃないか。寝ていられないさ」

ウィルは王の盾の一族であるグラディオのいとこにあたるが生まれつきからだが弱く王室に仕えられず療養していた身である。だからこそ王都陥落において無事でいられたのだが皮肉なものだ。今はイリヤと共に行動しホテル住まいをしているが、やはりいつも体調は万全とは程遠かった。

「アミシティア家に生まれておきながら、歯がゆいよ。」
「ウィル……」
「ごめん、グラディオを困らせるつもりはなかったんだ」
「……わかってるよ」

「グラディオは僕よりも4つも年下なのにしっかりしてる。長い旅の中よくやっているよ」
「そうでもねぇよ……気がたってノクトに一喝しちまったしな」
「グラディオ……」
「もっと話を聞けってな。いつもならかまわないんだが、俺は命を懸けてる。説教を聞き流すみてぇに扱われたんじゃ俺の命が足りねぇよ。……俺もあいつもピンチ続きで疲れてたんだ。大人げなかったな」


「グラディオは、寂しかったんだよ」
「寂しい?」
「ノクトには自分達がいるのに、ひとりで生きているように振る舞うノクトにさ」
「…………そうかもな」
「ノクトにとってもはや君たちは血肉も等しい。
彼の傷を守ってやってくれ。君たちを失っては、ノクトは心が壊れてしまうだろうから。自分を大事にすることで、彼の心を守ってくれ」

命を大事にしながら王に必要なときは命をとする、まるで矛盾だ。
ウィルはグラディオの頭に優しく触れて、昔のようにその闇の色のような髪を撫でる。ウィルがこうしてくれる度グラディオラスの心はいつも凪いでいた。

「お前の言葉は鋭利な剣みたいだ」
「剣、僕が?剣は君のことだろグラディオラス」
「皮肉だよなぁ、王の盾のくせして、剣だとよ。……お前の言葉は心の柔らかい部分に刺さる。優しく触れて心の奥まで突き通すような、腹の底まで自分を隠せなくなる。しなやかで強い剣だ」
「君って割りとロマンチストだね」
「黙って聞いてろ」

「剣も盾も戦いには必要なものだ。俺の仕事はノクトのために時には自分の命をもってまで守ることだ」
「…………うん」
「だから、お前はその剣で俺を守ってくれ」
「僕が?」
「お前にしかできないことだウィル。辛いとき、悲しいとき、心が折れそうなとき困難なときでも心に正直に向き合う力をお前の言葉はくれる。優しくて、嫌みのない真っ直ぐなお前の言葉は力がある。ノクトが道に迷ったとき、導けるのはきっとお前だ」

「グラディオ……」
「ノクトの力になってくれ。正しいだけじゃなくて、もし俺がいなくなってもあいつの悔いの残らない決定を下せるように助けてやってくれ」
「グラディオは今もノクトを守ってる。傍にいれなくても守ることができる人だ。僕のことも…グラディオは俺を守る盾のままだ。人に見限られた僕をいつも君だけはこのちっぽけなプライドごと守ってくれた。」
「ウィル……」
「僕も僕の全てをもって頑張るから…君は絶対に負けないでグラディオ」

身体は動かない、剣にもなれず盾にもなれず、何もできないウィルを
蘇られせたのはグラディオだった。生きている意味を与えてくれた
なによりも大切な、大事な、人

気持ちも心も体も全部をあげても君を守ることができない。大事な弟も陛下も忘れ形見も何一つ、だからウィルはここで命を全うするまで待ち続けることに、今決めた。命を前に誰もが膝を折る。結局死を前に人間にできることはなにもないことを僕らは知っていたのだから。


矛盾


  
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テーマ「人外ファンタジー」
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