ありし日の風景


ある日の夕刻
イグニスは個人的な客人に料理を振る舞っていた。
といっても彼が毎日食べている料理には劣るものだがこの国の大貴族に数えられているウィルはイグニスの料理がお気に入りだった。
そしてその料理人も大層なお気に入りだった。
王宮のパーティといえば参加するウィルの家は王室と古い縁のある関係で、イグニスは時たまに自室に彼を招いてこうして彼の好きな料理を作ってやることもある所謂幼なじみ、腐れ縁である

「イグニスはどこで料理習ったの?凄く美味しい」
「お褒めに与り光栄です」
「二人のときに敬語は無し、でしょ?」
「……そうだったな。」

高位の貴族のくせに尊大な物言いをしない屈託なく話すこの性格は単なる昔馴染みというだけでなく社交界でも目立つ彼の長所のようなもので、嫌みのないユーモアや豊富な話に爽やかな印象の彼は大概の人間に好かれてしまう
しかし身内には少しわがままを言って困らせる可愛らしい性格は皆は知らないだろう
イグニスはウィルのそんなところも好きだ
甘えられている気になってしまう。つくづく思わせ振りで
罪な男だ

「うちの専属になんない?お給料弾ませるよ?」
「生憎王子様のお世話で手が一杯だ」
「またノクトかよ〜……いいなぁノクトのやつ」

そんな彼は時折本気なのか冗談なのか
イグニスともっと近くで過ごしたいという意向をちらつかせる。可愛い男だ
彼は勉のたつ男だが、もっと本来はスマートに話す紳士で相手に無理を強いたりはしない
暗にイグニスとの時間はもっと欲しいのだと言われているとイグニスは受け取っている

「料理も必要に迫られてとはいうものの始めてみれば楽しいものだぞ」
「俺お前みたいなお世話妬きスキルないもん」
「なにか言ったか」
「なんでもないです……」

ウィルも結局わかっている。イグニスは自分を選ばないし仕事に誇りを持っている。
ノクトに対抗意識を持つほどイグニスを信頼してない訳じゃない
ただ傍にいてほしいことは贅沢な話だろうか
と考えてかウィルはイグニスの時間も気持ちもすべてほしいと願っているわけだから、やはり贅沢な話なのだろう。気持ちがかよっているだけで、十分だ

「本当にお前は変わらないな」
「イグニスは七三も可愛いよ……」
「うるさい」
「たまにしてね」
「やらない」


在りし日の風景

「心配しなくてもこの時間はお前の為だけだ」
「イグニス」
「王室に仕える従者か忙しくないと思うか」
「ごめんなさい」
「まだわかってないようだから言うが」
「忙しい合間を縫ってお前との時間を大事にしていることに俺の愛は感じられないか?」
「!」


  
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