小説 | ナノ
夢を見た。
最近よく見る夢だった。
夢の中には何も無い。
真っ白で色合いの無い空間に、俺と一人の子供がぽつんと二人きり投げ出されているだけであった。
一緒にいた子供が誰だったのか、俺ははっきり覚えていない。もしかすると全く知らない子供かも知れなかった。
ただどこと無く、見覚えのあるような、そんな奴だった事は覚えている。
ソイツは小さな肩を震わせて、静かに涙を零しながら言うのだ。
気付いて。
分かって。
探して。
目を逸らさないで。
苦しい。
苦しい。
いたい。
ただひたすらに、こうして欲しいああして欲しいと叫ぶソイツに、俺はなぜだか胸を痛めた。
涙を拭う事すらしないで、ソイツは俺にただただ胸の内を伝えるのだ。
まるで吠えている様だとも思った。
何と声を掛けてやればいいのかと戸惑って、そっと手を伸ばしたところで何時も夢は覚めてしまう。
あぁ、まただ、と思った。
何時も同じタイミングなのだ。この後、あの子供がどうなったのかを俺は知らない。
ただ、何時も夢が覚める直前に同じ声を聞くのだ。
「ねぇ、此処から連れ出して。」