小説 | ナノ

「人間、知らなくて良いことなんて山ほどある。知らない方が幸せな事もね。」

その言葉にドキリとしたのは間違いなく俺だった。

嘘を嘘で塗り固め、知られる事に身を震わせていたのは誰だったのだろうか。
今はもう返事も出来ずに横たわる、白い肢体はもう腐ってしまったに違いない。
どんなに望んでも、願っても、あの日々が帰ってくることは無い。そう、絶対に無いのだ。
愛していた。憎んでもいた。
今でもたまに思うのだ。もしあの手を取って、全てを許していたのなら、と。

いや、それこそ馬鹿馬鹿しい。元からこう運命付けられていたのだ。こうなる運命だったのだ、きっと。

「シズちゃん。」
名前を呼ばれた気がして、振り返る。そこには誰も居なかったが、最近は全く聞く事も無くなった、張り詰めた様な怯えた声が聞こえた気がした。
気のせいか、と、小さく息を吐き出して窓の外を見つめる。
白い鳥の群れが、二列になって青い空を横切った。ふんわりとした甘い臭いが鼻孔を擽る。

違いに抱えたパンドラを探り合っていた日々は、もう遠い日の出来事なのだ。
その日はそれはそれはもう、穏やかな朝だった。






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