小説 | ナノ
※大学生静雄×高校生臨也
「なぁ、臨也。」
「何?シズちゃん。」
「いや、何でもねぇ…。」
人の名を呼んでおきながら、俺からの返事にバツが悪いとばかりに口籠もるシズちゃん。
彼は俺より三つ年上の、大学三年生だ。
俺の通う高校は、シズちゃんの通う大学(因みに、超が付くほどの難関大学だ)から電車で三駅程行った場所にある、所謂有名進学校だった。今まで散々、それこそ入学した当初から大学受験だ模試だ何だと急かされ続けてきたのだが、今思えば全てが良い思い出に美化されてしまうのが不思議なところだ。
厄介だったのは、入学してすぐに進路希望調査を提出しなければならなかったことぐらいだろうか。
正直な話し、入学して直ぐに大学の希望なんて書ける訳が無かった。
つい最近まで高校入試に必死になってきたと言うのに、合格した余韻に浸ることさえ許されないなんて、俺はその時思いもしなかったのだ。
だから、適当に誰もが知っているであろう某有名大学を希望調査に記入してしまった事は、本当に大きな間違いだったと、今になってもそう思う。
第一希望という欄に記入した×××大学と言う大学は、毎年10倍以上の倍率を誇る超難関大学だった。
後々進路希望を変えれば良い話だ、と、軽い気持ちでその大学の名前を記入した俺は、後日突然教師に呼び出しを食らって、酷く驚いた覚えがある。
君には期待しているだの、応援しているだの、と、散々期待をかけられては俺も逃げる事が出来なかったのだ。
二年生になって、あまり気乗りしない状況下の元、足を運んだ×××大学のオープンキャンバスでシズちゃんに出会ったのがきっかけで、今こうして俺たちは付き合っている。俺がオープンキャンバスで一人迷ったところをシズちゃんに助けられて、成り行きで家庭教師なんかもしてもらって、そうして今恋人として二人並んでいるのだ。
二人の出会いからはもう、一年と半年が経った。月日の流れは早いと言うが、全くその通りだと思う。
気付けばセンター試験を通り、見事×××大学への入学が決まった俺がいる。
来年度からはたった一年間ではあるが、シズちゃんと同じ校舎で勉学に励むのかと思うと、今考えても胸が高鳴ってたまらなかった。
つい最近までは入学の準備や一人暮らしの準備でてんやわんやとしていたのだが、漸く落ち着いたのでこうして今、二人で合格を祝っているのだ。
シズちゃんの部屋で二人きりなんて久々なものだから、どうにもこうにも緊張してしまって、なんだかそわそわする。
それを誤魔化すようにグラスに注がれたオレンジジュースを飲み干せば、途端にシズちゃんが決意したように口を開いた。
「臨也、あのよ、良ければなんだが…、」
「ん?」
「お前さえ良ければ…その、一緒に暮らさねぇか?」
一緒に暮らさないか、と、言う言葉が脳内でリフレインして、思わず固まる。確かに納得のいく物件が無くて未だに新居だけは決められて居なかったので、俺にとっては本当にありがたい話だ。
朝目覚めてシズちゃん。夜寝る時もシズちゃんがいる生活。
ぼんやりと頭のなかに薔薇色とも言える日々を描いてみると、何故だか一瞬にして顔が熱を持ち始めてしまった。
「えと、あの…。」
「部屋なら余ってんだし…学校からもお前の実家からも割と近場だ。それに、同じ大学なんだ。条件としては悪くは無いだろ。」
「シズ、ちゃん…?」
「何より、常にお前と一緒にいたい。」
畳み込まれる様に条件を並べられた後にふわりと笑われて、俺の胸が高鳴る。大好きな恋人にここまで言ってもらえて、断る辷があるものなら是非とも聞いてみたい。
嗚呼、僕等薔薇色の日々
(こんなに幸せな日々が訪れるなんて、今まで思ったことも無かったのに。)