小説 | ナノ
※教師×生徒パロ





「ふ、ぁ…シズちゃん、おれっ、」

「先生、だろうが。なぁ、臨也?」


普段、からかい混じりに呼ばれる名前は、酷く甘美な誘い文句の様に思えた。
何時も通り呼び名を訂正させようと耳元でそう低く囁けば、びくりと肩を震わせながら途端に目元を朱に染めて、どこか泣きそうな表情で俺を見つめる臨也。その困惑とも怯えともとれる表情に、背筋をゾクリとさせる程の色気を感じて身震いする。

初めはほんの些細な戯れだった。

少しだけ。
そう言い聞かせて手を出したのは自分だと言うのに、今更になって怖じ気付いてしまうとは思いもしなかった。

この都内でも有数の私立高校で教師をしている俺は、今正に自分の立場を自ら危ない橋の上に放り出してしまったのである。目の前で瞳を潤ませ俺を見つめるのは、自分の教え子の一人であった。
折原臨也。成績は優秀、容姿端麗。しかし性格に難がある、校内でも有名な問題児だ。ただ単に問題を起こすだけなら可愛らしいモノだが、こいつの場合自分がやったという絶対的な証拠を残さず、周りの人間を巧みに利用して悪事を働くのが厄介なところだろう。しかも無駄に優秀な所為でこいつにビシッと制裁を加えられる教師はいないのだ、俺を除いては。

優秀だろうと何だろうと、それなりの悪事にはそれなりの罰を与える。それが俺のやり方だった。そんな俺が新鮮だったのか何なのかは知らないが、コイツはやたら俺に好意を寄せていたように思える。校内で顔を合わせる度に、からかうように笑いながらコイツは俺が好きだと言うのだ。

嗚呼、シズちゃん勘違いしないでよ、俺、恋愛対象って意味で言ってるから。そう言われたのは何時だったか。思い出すだけで頭痛がしてくる。
シズちゃん、と、俺の名をそんな風に呼ぶのは後にも先にも恐らくこいつだけだ。
しかし、俺はそんな呼び方を認め容認するつもりは全く無い。学校では絶対にその立ち位置を貫き通す。それが俺のやり方だからだ。しかし悲しきかな、そんな俺のスタンスは立った今簡単に崩れ落ちてしまったのだった。


こんな行為に及んでしまった手前、何だかんだコイツを突っぱねながらも俺は完全にコイツに絆されてしまっていたのだろう。恐らく自分でも気付かぬ内に。
たまたま明日使う予定の教材の準備を手伝ってくれた臨也に思わずムラムラと浮ついた感情を抱いてしまったのが、つい先程。相変わらず俺に本気か冗談かは知らないが、好きだと愛を囁くこの問題児の白い項や細い肩、くっきりと浮かび上がった鎖骨に我慢できず、思わず手を出してしまったのも同時刻だった。触れるだけのキスのつもりが、驚きと恥じらいに満ちたその顔を、ボッ、と火が吹きそうな勢いで赤らめた可愛らしい生物によって一転。
もう自分でも何をしてしまったのか分からなくなる程に、彼の口内を己の舌で掻き回し今に至る。

なんて事をしてしまったのだろう、と、一瞬思考回路が停止したのもつかの間。はぁ、と、甘い吐息を漏らす臨也に、自分は今、確かに欲情していた。
相手は子供で、しかも男だ。

子供に手を出すのもいかがなものかと思われるし、何よりも自分は教師で相手は生徒だ。
自分と臨也との立場が全く逆のものであったなら、こんなことにいちいち頭を悩ませることも無かったのかも知れない。


(俺が生徒だったら、か…もうとっくに喰ってるな、そりゃ。)


もう一度言おう、初めは本当に、ほんの些細な戯れだったのだ。

少しだけ。
そう言い聞かせて手を出したのは自分だと言うのに、今更になって怖じ気付いてしまうとは思いもしなかった。

触れるだけのキスのつもりが、驚きと恥じらいに満ちたその顔を、ボッ、と火が吹きそうな勢いで赤らめた可愛らしい生物によって一転。

もう自分でも何をしてしまったのか分からなくなる程に、彼の口内を己の舌で掻き回し今に至る。

なんて事をしてしまったのだろう、と、一瞬思考回路が停止したのもつかの間。はぁ、と、甘い吐息を漏らす臨也に、自分は今、確かに欲情している。

そう、欲情しているのだ。
しかも厄介なことに、自分の快楽を追い求める類の欲情ではない。


(目の前の少年を滅茶苦茶にしてしまいたい、だなんて。)


何度も踏み止まろうとした。しかし、奴の濡れた瞳が、困惑とした表情が、そして柔らかな唇が、俺の理性を済し崩しにしようとする。


(あと少し、少しだけ。)


そう自分に言い聞かせつつも、本能的に理解していた。
俺の事が好きだというコイツの前では、我慢も理性も全てが無駄なのだと言うことを。


(ならばいっそ本能に従順になってしまえ。)




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