小説 | ナノ
とても不思議な夢を見た。

蚤蟲が流れ星になって消えてしまう夢だ。


「シズちゃんシズちゃん、おれ、君のことがすきだったよ。」


俺にそれだけ言い残し、きらりと光り星になって消えてしまった蚤蟲が、あの時一体どんな表情をしていたのかを俺はよく覚えていない。
本当に一瞬の出来事に俺は頭がついて行けず、ひたすら茫然としていたのだった。

そうして漸く蚤蟲が消えてしまったことに気付いた俺は、なりふり構わず声を上げて泣いた。
それはもう今までに無いぐらいの泣きっぷりだったように思う。

幼い頃親父に怒られた時も、周りに化け物だと罵られた時も、こんなにも泣いたことは無かったはずだ。

わんわんと声を上げて泣いたことによって零れた涙が、足元にちゃぷちゃぷと溜まって行き、気付いた頃には涙の海ができていた。

そこには俺と海と奴が消えてしまった空があるだけで、その他には何もない。
そう、何も無かったのだ。
それだけだったのだ。 

ふと俺は、その時どうして奴を直ぐにでも追い掛けなかったのだろうかと酷く後悔した。
目の前には障害物なんて何もありはしないのだ。

地球は丸いし、空を飛ぶ辷を持たない俺が奴を捕まえるようなことは確かにできない様にも思う。
しかし、何も行動しないというのはまったくもって自分らしく無い気がした。


(そうだ、今からでも遅くは無いはずだ。)


漸く臨也を追い掛けると言う選択肢を手に入れた俺は、いざ入水せんとばかりに涙で出来た海に潜り込んだ。
バシャバシャと水を掻き分け、そして果ての無い空との境目に向けて泳いでいく。
臨也に会いたい。
ただその一心しか俺には無かった。

そう、それしか無かったのだ。



「シズちゃん。」



急にクリアな声が耳に飛び込んできて、ハッと目覚める。
目の前には心配そうに俺の顔を覗き込む臨也がいて、情けないことに俺の顔は涙でベタベタになっていた。


「ねぇ、どうしたの?何処か痛い?」

「今…凄く、胸が、痛ぇ。」


俺をあやす様に言葉をかける臨也をそっと腕に閉じ込めて、強く抱き締める。
「手前が消えるゆめを見た」と、小さな声で呟けば「馬鹿だなぁ、消えたりしないよ」と穏やかな声で返されたものだから、何だか俺は無意識に安心してしまうのだった。
言葉なんて不確かなものだし、人間は心変わりが激しい。何よりコイツは信用ならねぇ。

けれど、俺を宥める様に優しく頭を撫でる臨也の手がどこまでも優しいものだから、俺は疑うこともせず馬鹿正直に安堵してしまうのだった。


(そうだ、俺は一度、あの夢に似た体験をしている。)


散々人を引っ掻き回して苛立たせて、その上俺に愛の言葉を囁いてコイツは消えたのだ。あの時俺がどんなに悩んで苦しんで苛立ったかも知らずに、コイツはいつの間にか新宿に新居を構えて悠々としていたのがなんとも腹立たしい。

あの時は、泣きたいと言うよりは怒りの感情が大きかった様な気がするが、と、過去を振り返ってみれば、とてつもなく情けない自分の姿が脳裏を過って、何だか恥ずかしい気持ちになる。そんなことを考えている内に段々と眠くなって、胸の中の臨也を何処にも逃がさないとばかりに強く抱き込んだ後に、そっと暖かな温もりに意識を委ねたのだった。



(そんな繰り返したくない夢の話。)


「お休み、シズちゃん。」






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コンセプトは蚤蟲から臨也へ。リメイク作品でした。
別にその時は悲しく無かったけど、恋人になっちゃった今の状況で同じことされたらヤだな、って思ってたら可愛い。



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