小説 | ナノ

※客×店員

「んじゃ、ちょっくら俺は話聞いてくるからここで待ってろ。」

「え、あぁ、分かりました。」

じゃあ行ってくるな。そう言ってトムさんが階段の向こうに消えていく。
一人ぽつりと残された俺は、その場の雰囲気に居心地の悪さを覚えつつも、辺りをぐるりと見渡した。
人間の欲望とは恐ろしいものだ。ただ突っ込んで射精するセックスが物足りないとでも言うのだろうか、商品棚には所謂大人の玩具がずらりと陳列されている。

オナホールやら極太のバイブやら、何に使うのか分からない程細いバイブ、更には何やらクリップの様なものまである。
一体全体何に使うのやら。
そう思いつつ、本当にこんなの入るのか?と思うほど太いバイブを手に取り、眺める。
バイブには小さないぼいぼが付いていて、どうやら電源を入れるとバイブが振動する仕組みになっている様だった。

「ふふっ、それ、気になります?」

「えっ!?あ、いや。」

「別に恥ずかしがることありませんよ。」

急に声を掛けられて、慌てて手にしていたバイブを棚に戻す。
こう言ったアダルトグッズ専門店に入るのは、実はこれが初めてだ。入った事が無いからこそ疑問に思うのだが、こうして店員と客が仲良く世間話なんてするのが普通なのだろうか。
俺だったら是非そっとしておいて欲しい。そんなに堂々と玩具を物色できるほどの強靭な心を、俺は持っていないのだ。

自慢にもならないが俺は齢23にして、未だに童貞というレッテルを貼られたままなのである。
そんな俺が堂々と卑猥な玩具を物色できるはずも無く、自ら童貞ですと主張せんばかりに初々しい反応を取ってしまい、後悔した。
あぁ、きっとこの店員さんにも俺が童貞であることが伝わってしまったに違いない。

そろりと相手の顔を伺うようにして振り返る。
そこでキョトリと不思議そうに俺を見つめる男と目が合って、思わず俺の心臓がドクリと脈打った。


やたら綺麗な店員だった。
白い肌に黒い艶やかな髪が、何だかストイックなエロさを醸し出していて、ぞくりと肌が栗立つ。
薄く開かれた唇を見ていると、無意識に喘がせてみたいと言う欲望にすら駆られた。

そこまで目の前の店員を観察したところで、俺はハッと我に返る。
ちょっと待て、俺は今何を考えた。確か俺はいたってノーマルな趣向をしていたはずだ。
相手は男で自分も男である。今のは何かの勘違いだ気の迷いだと言い聞かせていれば、目の前の店員(ネームプレートに折原と書かれている)が、先程俺が見ていた玩具をそっと手に取った。

「このバイブ、AWAKSUって言うメーカーの新商品なんですけど、今までのどのバイブより振動強度の幅を調節できるって人気なんですよ。」

「え、と…。」

「彼女さんとかに試してみたらどうです?きっと病み付きになると思いますよ?」

「あ、いやっ!彼女とか、居ないんで…その。」

新商品だと推すそれを使う相手が居ないのだから、売上に貢献してやりたくてもしようがない。
彼女なんて出来たことのない童貞からすれば、玩具なんて言うのは最早高すぎるハードルだ。いや、もう寧ろ大きな壁なのだ。

「へぇ、彼女さん居ないんですか…。こんなに素敵なのに、不思議だな。」

「えっ!?」

素敵だと褒められて、ドキドキと胸が高鳴る。
するりと折原さんの細くて長い指が俺の指に絡み、驚いて顔を上げれば、蕩けるように潤んだ赤い瞳と目が合って、カッと下半身に熱が集まるのが分かった。

「ねぇ、お客様…これ、試してみません?」

「あ、あの…?」

「玩具の良さ、お客様にも知って欲しいな…俺の体で。」

そう言った艶やかな薄い唇が俺の乾燥した唇に重なり、思わず目眩がした。
だめ?と、上目に俺を見上げるこの店員の誘いを断る術があるのだろうか。
いいやあるはずがない。あってたまるか。
そうだ、誘いを断る術も必要も無いはずだ。ならばこのまま俺がこの誘いに乗ってしまっても、それは仕方無いことだろう。きっとそうだ。いやもう、誰でも良いからそうだと肯定して欲しい。

もうどうにでもなれ!
ごくりと一つ喉を鳴らし、ぐっと決意する。
そして覚悟を決めた俺は、幾つか玩具を手に取った折原さんと店の奥へと足を進めるのだった。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -