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あれから色々探し回ったというのに何も出ないとは何事だ。屈み過ぎと四つん這いになりすぎて腰と膝と足が痛い。結構体勢は変えてやってたのになんでだ、普通ここまで痛くならないだろ。くっそいてぇ。粗方探し終まくった私は足腰の痛みを取るべく邪魔にならない程度に座り込んだ。足を伸ばして血行云々を…と。

「休むとはいい心構えだな」

「あ?緑間か。これには深い訳があるんよ。ところで何かあった?」

「……いや。足が痛むのか」

足首を軽く揉んでいる動作からそう察した緑間は、最初のきつい言い方はどこへやら。心配する音色でもないがただ聞いてきたような声。ええ待ってくれこの流れで会話していくの?私と話していても、和成みたいにコミュ力高くないから会話を続けるのは些か無理があるよ…。しかし上辺だけとは言え心配してくれたのは嬉しかったので私もちゃんと答える。

「しゃがんだり這ったりしてたら足腰に響いちゃって」

「はぁ…鍛えが足りないのだよ」

「あーまあ…そうだね」

明らかな溜息をついた緑間に、そうだね、今部活やってないから体が少し弱ったのかもしれないねぇ。ってんなわけないでしょ。あれだけやってたら痛みくらい感じるだろ。……とはさすがに言えなくて。や、でも足伸ばすほどってことに関しては緑間の言うことに一理あるけど。あるんだけども!なんかそれそすら言うのも、こいつの機嫌を損ねかねん。…やめておこう。
足首はもういいから腰、と体を逸らしじじ臭く腰を叩く。ちょっと休んだら楽になった。再開しようか、とも思ったんだけどー。一度座ると立つのめんどくさい。その一連の流れを横目で見ていた緑間は怪訝そうに顔をする。え、なにこっち見んな。
緑間は何か言おうと口を開きかけ……口を閉じた上に顔を逸らされた。…なんなんですかねこの人。和成もよくこんな訳の分からない人と一緒にいられるよな。今の行動が謎すぎる。眼鏡かち割っていいですか。

「おいお前ら何勝手に休んでんだ?轢くぞ?」

「休んでないです。マッサージしてました」

「……」

「鈴さん真面目に受け答えwwww宮地さんも黙らないでwww」

今のどこにツボったのか知らないけど、とりあえず通常運転。疲れてる様子はなしということでいいでしょうか。よいしょと言いながら立ち上がる私はまたしても年寄り臭い。いずれはそうなるけどな。さてと。

「そっちは何か見つかりました?」

「いや何も。…アンタは」

「下の方を主に探し回ってたんですけど、特に何も」

正直ここ探索するの飽きましたとか言えない。そろそろ次へ行きたいとも、言えるわけない。切の良さそうなところで動いてくれるのを待つだけ。
コンピューター、教卓、コピー機。ここにあるもの全て調べたが、落ちたコンピューターの下にあった紙以外何も見つからなかった。せめてここにいるであろう元凶の手がかりさえあればなぁ。何か手は打てるかも…しれないだけで実際出来るかは分からない。溜息は吐かないぞ。

「そろそろ次の教室に入ってみるか」

大坪さんのその一言でこの教室の探索は終わりを告げた。よっしゃー次の部屋ーと意気込んでみるがなんでだろう、もう疲れた。精神が。今は大坪さんたちに着いて行って次の教室にそうそう向かわねば…と言っても隣の教室までそう遠くはないんですけどね。

部屋を出る一歩手前で腕を後ろに引っ張られバランスを崩した。なんとか持ちこたえ、引っ張った人物を見やる。こんなことするのは一人しかいない…はず。

「…なに、和成さん」

「せっかくだからさ、ここで使ってみない?」

「は?」

何をと言わなくても分かる。さっき散々話した目のことだ。ここで使えと…仮に使って先の方に化け物いたら軽くトラウマになるんですけど。久々にまともに使って化け物発見とか、私嫌だからね?目の話するせいで突然引っ張られたこと咎めるの忘れた。

「大丈夫、周りはまだ何も見えないし、さ」

「んー…分かった」

まだ見えないとか、先に視たんかいという突込みは放棄してここに来てから初めて素直に頷いた、気がする。和成もそう素直に頷くと思っていなかったのか、一瞬目を見開いてすぐ元に戻って頭に手を一度置いた。…おいやめろ背が縮む。
私の目の事をほぼ熟知しているに等しい和成は、私より一歩前に出て私を待っていてくれた。先に出ていた先輩さんたちも、緑間もこちらを不思議そうに、そして周りを警戒心たっぷりに見ていた。

「どっちを視ようか」

「進行方向で」

進行方向ということは左ですねー。和成の隣へ行き申し訳ない程度に袖を摘まませてもらった。あの時は無意識に使っちゃったけど、今回は意図的に使うから難しい。集中…集中……。私なんでこんなの使えるようになったんだっけ、見たいから、覗けちゃったんだっけ。

「…おし、行こ」

「行きましょー先輩!」

「とりあえず後で聞くから覚えとけよ」

先を見ることに集中する私は、周りはもちろん、先輩たちの顔すら見えない。もちろん和成の顔も。何がどうなってそのような会話をしているかは不明だが、この行動について気になっているってのは分かった。説明してる間に化け物とか来たら嫌だもんなぁ。さっさと隣の教室に入って、探索しながらお喋りしましょう。
…うん、ちょっと余裕は出てきた。


無意識に口角を上げていたらしい私は、それを和成に見られているなどちっとも知らなかった。何故先輩さんが後で聞くと言い出したのかも、この行動を黙って見ていてくれたのかも、全部和成が仕組んだことなどまだ知る由もない。

あとから言ってしまえば、和成は先回りはよくしてくれるけど私のメリットって何だろうか。でもおかげでスムーズに使えたんだよな…とは言わないでおく。
結局、こういうことに関しては和成に頼りっぱなしなんだよね。

20150511


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