35


「赤司とは違う意味っすよー。確か見えない道の先が見える、だっけ?」

「あー、うん、だったと思うよ」

なるほどそんなのでいいのか、さっすが。まあ、あれだ…ずっと使ってないからどんなだったか忘れてたんだ、と言い訳しておこう。にしても和成さんよく覚えてたね。

「曖昧だな」

「もう何年も使ってないからね」

「…ふん」

あら、どうやら緑間には嫌われてしまったらしい。別にいいけど。顔を逸らされて眼鏡をくいっとあげる。妙に様になってるのがちょっとイラつく(褒めてる)。なんで眼鏡くいってしたんでしょうねこの人。体育館にいた時もやってたよね、癖なのかな。

「見えない道が見える、ってのはどういうことだよ?」

「…え、と曲がり角の先が見えます」

「それは俺にも見えるからね!」

「えーと…隙間さえあれば部屋の中とかも見れます」

「ちょっと分からん」

私だって分かんねぇよ。とか言えたらいいのに相手が先輩さんだから言えない。和成の先輩さんだから余計に言えない。場によっては損してる気がする。若干男口調とか気にしない。私だって必死なんだよ。昔の記憶あれこれ掘り下げて、合ってるかどうか自信もないまま説明していくの!どのくらい見れたか、っていうのが言えればいいんだよね。うーーん……そういえば限界まで見たことなくないか?

「んー俺は上からコート全体が見える。鈴は視野自体は狭いけど距離はあったよな」

「そうなの?」

「本人が覚えてなくてどうするwww」

言われて気付いた。そうかもしれない、と。あくまでも思い込み。実際どうなのかは分らないもんよ。横で和成が色々フォローしてくれて非常に助かってるけど、アンタよく覚えてたねと若干引いた。ちょっとだけだよ、うん。
でもそれ言っちゃうと多分あれ言われる。勘だけど。フリじゃないよ。

「てか見えてんじゃねーの?」

「いえ、」

「そうそう!鈴のすごい所!自分の意志でオンオフ出来るんすよ!ねっ!すごいっしょ真ちゃん!」

「何故俺に言う」

「…和成、突然声上げんのやめて、うるさかった」

「へ?ごめん」

緑間ごめんね、うちの和成がうるさくて。あとすごくないから。
真横で騒がれるとそのうちう化け物に気付いて、この部屋にいると嗅ぎ付かれてしまうのではないかと思う。この階にもいるか知らんけど。でも1階と4階にいたんだ、この階にもいないわけない。多分。次の教室に行くとき気を付けねば。ああでも和成がいるからまだいいか。

「つまり今は見えてないと…それ、オンにすることは可能か?」

「出来ればしたくないのですが」

「まー鈴さんや、ここは俺らのためにちょいとその眼活用しね?多分ここじゃ役に立つと思うからさ」

人差し指をピンと立て、あざとさMAXレベルのウインク付きで私に使えと申してきた。お前…知ってて言ってるよな。あれだけ覚えてたんだ。覚えてないわけない。
うんともいいえとも言わない私に、和成は困ったように笑った。

「言ったじゃん、克服させるためだって。これも何かの縁ってやつだし、良い切っ掛けにはなると思うぜ?これを機に使ってみたら?」

「傷が深くなったら」

「そん時はそん時ー…嘘嘘!大丈夫って俺信じてるから!怖がんなくても大丈ー夫!」

何を根拠に言ってるか分からないけど、確かに良い切っ掛けではあると思う。私もいつまでも引き摺ってるわけにもいかないし。少しでもそれが軽くなれたら…とは思う。思うだけだ。
それでも、和成の言う"大丈夫"に掛けてみたかった。まだ知らないことが多いけど優しくていい人たちばかりだし、何か悪いことを言うようには見えない。人は見かけによらぬものということわざがある。悪そうに見えて実はいい人だったり。逆もまた然り。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけやってみようかな…。

「出来たらハー○ン3つね」

「っえ!?多くね、」

「一気にとは言ってない。それくらい出せってこと」

「それはありがたいけど、男子高校生の財布事情知ってんの?」

「知らない」

「お前…!普段からあまり物買わないからそんな事が言えるんだ…!!」

アンタ普段から何に使ってんだよ。そんなに使ってるのかよ和成さん。ていうか私の財布事情とかどうでもいいよ。確かにあまり欲しがらないけど。
…ほら周り見てみろ。明らかなる置いてけぼりくらってますよ。アンタの先輩さんと相棒でしょ。早く何とかしやがれ。そしてこの話はもうお終い。いつまで騒いでるんでしょうね和成さんや。
さっきいた場所に戻って何かないか探そう…。

「鈴の鬼!悪魔!」

「5つ出してくれるって?マジかー」

「まあ頑張れよ!出来るだけでいいからさ!」

ちょっと増やしたらこの変わりようである。腹筋も崩壊しかけた。…マナーモードも楽じゃない。先輩さんの中では噴き出した人もいるけど。
後ろに聞こえる笑い声は大変賑やかで明るいけど、化け物来たらこの人たちの責任だからね。何とかしてね。…というのは心の中で言うだけに留めて代わりに小さく息を吐いた。
きっとそのうち我に返って持ち場に戻るだろう。何か見つかるといいなー。

20150406
高尾君の眼は常時広いという事にしてます。


back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -