34 殴ってすぐに復活した和成に引っ張られ隅っこに肩を寄せ、急遽家族会議ならぬ兄妹会議が始まった。他の秀徳メンバーには和成が一言いってあるので、恐らくこちらを気にしつつ調べている頃だろう。時折物音がしたり止んだりするから多分合ってる。 私としては殴った事に何も言われないのが不思議で堪らないんだけど。いくら兄妹とは言え、普通殴ってる人見たら何か言うでしょ。注意とか、抑えるとか。え、もしかしてドラマの見すぎなの? 意識を前に戻して見た和成の表情は笑いながらも少し反省の色が見える。だが笑っているせいで反省の色が薄く感じられる。もう一発いっとく? 「悪かったって。だから一旦落ち着こ?」 「あのさ、私全員を信用してるわけじゃないんだよ。頼る意味で。何勝手に言っちゃってんの?何話盛っちゃってんの?和成よりすごくないし、そこ訂正しろ」 「まずそこなのねww」 「今笑うの禁止」 「はい」 今の私は誰がどう見ても不機嫌です、という顔をしているだろう。だって不機嫌だし。勝手に喋ったことも、馬鹿みたいに盛ったことも。いくら自分が信頼してるからって、勝手に個人情報を暴露するのはよくないと思うんだよね。しかも妹の。 例えるなら合コンの席で、アイツとくっ付いたらおもしろそーとか考えちゃって、勝手に妹の生年月日、年齢、血液型その他もろもろを話しちゃう奴。 更に例えるなら後輩(男)にうちの妹とかどう?って言って妹のメアド渡しちゃうような奴!今の和成がモロそれです。タチ悪いんでやめてください!! 「でもいつまでも黙ってちゃ、それこそやばいんじゃねーの?」 「言う必要性だってないと思う。それに赤司には言ってるんだからいいじゃん」 「赤司に言ってるんだったら他の人にも言ってあげねーと可哀想だろ」 「…アンタさっきから何企んでるの?」 「んー?克服、かな」 にしし、といった感じに笑う和成は悪戯をする子供のみたいな顔をしていた。克服?しなくていーって。妙に突っかかって来るからなんだと思って聞いてみれば…聞かない方がよかったかもしれない。 和成に眼を教えたのは間違いだったかもしれない。 「おいそろそろ終われや轢くぞ」 「いっ!?」 「った!?」 突如頭上から聞こえたそんな声と共に脳天に一発のチョップ。和成と私は痛みと驚きで声をあげ、叩かれた場所を抑えながらほぼ同時に蹲る。さっきの声を繋げると「いった」になるとか知らん。 割と痛くて若干視界が歪むが、殴った本人がものすごく怒ってるのは分かった。こちとら女子っすよ。もうちょっと手加減くらいしてください。 まだ痛む頭を押さえながらもよろよろと立ち上がり、横に立つ宮地さんを見上げた。…あ、激おこです。プンプンドリームの方です。あまりの怒り具合に痛みを忘れそうになった。この人の笑顔が怖いと知った今日。今日知り合ったんですけどね。 宮地さんの後ろには緑間や大坪さんと木村さん、の姿もあった。…多分間違えていないと思う。先輩さん2人は呆れ混じりに溜息をついていたが、緑間、お前なんで平然と真顔で眺めてる。 「で?」 「はい?」 「高尾よりすごいってどういうことだよ」 「そんなんじゃないです…」 「本人曰くすごくないとの事でっす!俺は十分すごいと思うけど」 「へえ。コート全体の次はこの部屋全体か?」 「違います。和成自分の感想入れんな。ややこしくなる」 「でも実際すごいだろ?」 「私の話聞いてた?」 「待て」 宮地さんの後ろから制止の声が聞こえ3人は口を噤む。声の方へ目をやると緑間が先程より近づいてきていて、今喋ったのはコイツか…と一人考えてた。緑間の表情は少し険しく、何か言われることは明白…いや、じゃなきゃ止めたりはしないでしょうけど。言葉の続きを目で促す。彼は私を見下ろし、若干睨むような目で口を開いた。 「何故それを今まで黙っていた」 それはとても簡単な質問で、答えなんてすぐに出ていた。さっき和成に言ったことの一つをそのまま言い放ち、他にはないの、と再度促す。数秒空けて返ってきたのはやはりというべきか、私の持つ眼について。要は他にはもうないってことですよね。 「こんな眼使えないですよ。普通では」 「使えない?どういうことだ」 説明しなきゃ駄目かなーと少し面倒になりつつも、ここまで喋ったなら全部大体喋らなきゃ悪いよなと思いつつ。そもそも事の始まりは和成のせいなんだし、和成に全部任せた方がいいんじゃないか。…でもまた変なこと言われたら訂正がめんどくさい。 それと説明って言ってもどう説明したらいいのかも分からない。なにせこの話は1回しかしたことない。それとその時は今と比べてまだ幼かったから具体的な説明もできないまま身振り手振りでしてた。……ような気がする。 つまり説明しろって言われたら少しお時間を頂きたいわけでして。言っても多分聞き入れてくれないだろうから頑張って言葉を探してんだけど。分かりやすくて、尚且つ簡単に説明する方法は…と。 「じゃ俺から説明させてもらいまっす!鈴の眼は、俺や伊月さんみたいな視点を上から見るんじゃなくて、先を見ることができるんすよ!」 「…赤司みたいなものか?」 「赤司どういう目してんの」 「鈴その話は後でな」 多分和成の言った意味とは違う意味で受け取ったからだと思うけど、赤司もしかしてチートだったりするの?え、それならチートが探索行けばいいんじゃないの。後で詳しく聞けるみたいだし、今からその話が楽しみで仕方ない。先を見る、だろ。うーん………未来が視える、とか?…それ超ヤバい。 20150406 |