32


廊下を6人分の足音だけが響く。誰一人として喋らないこの空気に、化け物でもいいから来てくれないものかと願う。出発直後は会話はあったものの、校舎に入った途端誰も喋らなくなるんだもん。なんですかこの空気。普段うるさい彼もだんまりだし。その口は何の為にあるんだと疑いたくなる。

全く以てこうなってるのか分からない。いつまで喋らないんだろう、いつまでこの空気に耐えればいいんだろう。おかしいな、体育館から出る前はまだ少し会話はあったはずなのに。校舎に入った途端これだからどういうことだよ。ピタ、と止まったんじゃなくて自然に会話が切れた感じが怖い。

そして無言のまま最初の目的地である職員室に着いた。ここに来るのも3回目…毎回ここに来るのもそろそろ面倒だし、いっその事鍵全部取っちゃえばいいんじゃないの。…そうだよ、何故今までそうしなかった自分。鍵全部持ってればわざわざここに来ることもなくなり、少しでも時間短縮になるじゃないか。どこにどの教室があるかなんて知らない。一々見て回る方が面倒だ。化け物がいたら逃げればいい。…そうだよ!

職員室内に音もなしと確認し、すぐさま職員室に入っていく我ら一同。遠くでぺちゃ、と音がした気もするが無視です。知りません、そんなの気のせいです。

「ふぃー…あっぶねww」

「今出ても鉢合ってしまうな。向こうが消えるまで暫くここらで待機しよう」

「だな。鍵もいくつか取っとくか」

「教室とパソコン室だったか?」

「ここではコンピューター室です」

「どっちでもいいわ」

職員室に入ったと思ったら話し出した今回階の探索メンバーたち。喋るんかい。と内心突っ込んだ私は悪くない。そしてやっぱり聞こえてた。

これからこのメンバーで行くのは2階ほぼ全般。図書室やコンピューター室があった階。あと確か3年のクラスがあったような、なかったような。
他の人たちはちゃんと3年のクラストとコンピューター室の鍵を取ってるし、では私は早速他のところの鍵を全ていただきましょうかね…。

「鈴は何やってんの?」

「何も悪いことしてないよ?」

「いや分かるけど」

目敏い彼は手を伸ばした私にすぐ近寄り横から突いてくる。それに反応した数人の視線が背中に突き刺さる。他意はないだろうけど、一瞬心臓跳ねたわ。
それはさておき、質問には答えるよ。近くにあったまだ未回収の鍵を一つ手に取り「先に取っておこうと思って」それだけ言ってまた次の鍵に手を伸ばす。さすがに持てる数に限りはあるけど。答えを聞いた和成は「なるほど」と一拍置いて納得していた。なんで取るのか一瞬考えたんだよね、その顔。

今回の探索メンバーは秀徳。そう、身内が通ってるあの秀徳です。今までは全く知らない人たちと一緒に(何故か)探索に出されていたけど、今回は知ってる人間がいるからか、これまでと違って少し肩の力を抜いていた。おかしいね、ホラゲっぽいこの場所では気を抜いた今が一番危ないっていうのに。気を引き締めなきゃ。
そのうち秀徳も探索に駆り出されるんだろうなとは思ってたけど、何故私まで駆り出されるんですかね赤司さん。帰ったら問い詰めよ。

気を抜いているとは言え、常に警戒はしている。職員室内に聞こえたあの足音といい、さっき聞こえた…あ、これは気のせいって言ったっけね。なんにせよ出た瞬間とか天井とかいろいろ警戒して行かねば。アレには会いたくないものだね…。
でも和成がいるから恐怖もまだマシだよ。…多分。

「他の鍵なんか持ってどうすんだよ?」

「毎回探索の度にここに寄るのもめん……時間が勿体なくて」

ごく普通に話しかけられ、あ、と思った時には時既に遅し。気を抜いていたためかうっかり本音が出かけた。危なかった、セーフ。化け物がいなくても気を張っていなきゃいけないって疲れる。
確か宮地さん…って言ったっけ。和成に対して物騒なこと言ってた人。いいぞもっとやれと思いました。私の回答に納得してくれたのかそれ以上は何も聞いてこなかった。

「俺も手伝うぜ?」

「…そう?じゃあこれ」

「一気に渡す!?」

「おい騒ぐな。気付かれるだろ」

「そうだよ」

「うっす…!」

「後で覚えてろよ」という和成の目にはうっすらと水の膜(幻覚)が見え、カワイソー(笑)という目で和成を見ていた。ちょっと勝っちゃった気分になっちゃっただけだって。してやったりってゆーの?でもあれは自業自得と言うものだと思うです。

しかしすぐさま真面目と書いてマジと読む、そんな顔になった。こそこそ耳打ちするように私の耳元に顔を寄せる和成。行動早いわー。

「なあ、本当に言わねーの?」

それが何の事を意味するかはすぐに分かった。まだ引っ張りますかこの人。そりゃ知られちゃってるし一人だけ言うだけ言ったけど。ていうか耳打ちしてる間にアンタも怪しまれちゃうんじゃない?と発想が出てきて急いで引き離した。

「うおっと、」

「近い」

大体鍵も持てたしもういいだろう。いやあポケットには鍵がいっぱい。これだけでもこの学校は教室が多いと見た。そろそろ最初みたいに3校くらい探索に出した方がいいかもね。よく考えてみたらホラゲにこんな鍵が一気に手に入るポイントなかったな。まあここはホラゲじゃないしそういうのがあっても…ねえ?
なかったら積みゲーです。ありがとうございました。

「…足音は遠ざかったな。皆いいか」

「問題ねぇよ」

「はい」

「どっちからいく?」

「近い方で行こう。前を通ったような音もしないしな」

「んじゃ少し戻るか」

あれ、この会話的に行くと…もしかして…!
少し期待した足取りで慎重に職員室から出ていき、階段を上って行った。

20150329


back

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -