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「不思議だとは思わないのか。何故自分がここにいるのかを」

「不思議すぎて欠伸が出る。赤司なんか心当たりでもあんの?」

「被害者のフリして潜り込んでいる以外にあまり見当はない」

「さすがに被害者のフリして潜り込むには些か無理があるんじゃない?そもそも私には理由がない。あると言うなら証拠付き提示してみせてよ。答えによっては、私が隠してる事言ってもいいけど」

こんなやりとりを何度したことだろうか。ああ言えばこう言う。まさにそれ。ていうかこれでしか言い合っていないような気がしてきた。いやいやそんなはずは……あれ?
赤司に言われた言葉一つ一つを覚えてやり返すってのがまた大変で。絶対この人頭いいやつ。平均知能の私が適うはずもないけど、売られた喧嘩は買う。けど悪役っぽい演技にはそろそろ疲れてきた。更に悪くしてどうするんだろう…。

隠してる事言ってもいいよなんて言ったけど実際言うつもりはない。私が彼らをここに連れてくる理由も証拠も存在するはずがないからこんなことが言えるわけで。だって私は彼らの事はここで出会うまで知らなかった他人。一部除いて。ここで赤司が何か出てきたらそれはもう捏造です。信じちゃ駄目です。

ああでもここに連れて来るにはどうすればいいんだろうね。知るか畜生。誰が好き好んで自分で連れてきておいて、自分もわざわざここに混ざるかっての。さすがにあれはグロい。…そう…あのリッ○ーもどき…やば、思い出したら鳥肌が。

ていうか、なんかさっきから黙ったまんまなんですけど。えーなにー怖いんですけど。冷たい視線を送るのを一旦やめ、ひとまず声を掛けてみることに。いや別に心配じゃないし、畳み掛けですし。

「…赤司?」

「……」

言い合いの次は無視ですか、そうですか。無視するならもうこの言い合いも意味ないね。
結局勘違いだと分かったあの顔を見ることは出来なかった。っち、なんて出来もしない舌打ちを心の中でやっておく。視線を赤司から逸らした時だった。

「……にを…」

「え?なに?」

「君は何を持っている?」

しん…と静かに、されど重いようにも聞こえるたったその一言に視線をもう一度赤司に戻した。真っ直ぐこちらを見つめていて、先程のあの冷たい目はない。

…けれど意味が分からなかった。どういうこと?何を持って…メモ帳とかペンとか?すごく意味深風みたいだけど何を言ってるかさっぱり…。こう言ってる時点で分かってるって言われそうだけど分かってないから。言いたいことははっきり言わなきゃ分からん。
じっと相手を見つめていると伝わっていないと理解したのか少し呆れたように言葉を付け加えた。

「そろそろ答え合わせをしようと言っているんだ」

「なんの」

「君がここに連れて来られた理由だよ」

今まで見せてた目ではなく、本当に真剣に見てくるもんだから一瞬言葉を失う。私が連れて来られた理由?ただ単に巻き込まれただけじゃいけないのか。連れて来られた?誰に?何が目的で?…どうして私も?赤司には何か答えでも見えてるわけ?頭いい人って訳分かんない…。

さっきと打って変わって周りにも声を掛けていく赤司。もうあのピリピリした空気はいつの間にか無くなっており、そんな空気を作っていた当事者である私と赤司以外の外野はぽかんとしていた。一部ほっとした様子が目に見えたけど。

……あれ、そういえば和成が秀徳にいない。その事に気付きちょっと見回したら案外すぐ見つけた。何であんなところに…とそこまで考えて、もしかして裏で手を回していてくれたのだろうか。だとしたら私の勘はどうやら当っていたらしい。心の中で礼を言おう、和成ありがとね。

私は…どうしようかなーってその辺ふらふらしてたら突然後ろから衝撃を喰らった。一、二歩よれて振り向くとピンクが見え、なんとなく予想は出来た。…おかしいな、デジャヴを感じる。

「桃井、痛い」

「鈴ちゃんなんであんなことしたの!見てるこっちはすっごくハラハラしたんだからね!?」

おや私の言葉はスルーですか。そうですか。あれデジャヴ。
体の向きを変え、桃井にごめんねと謝った。今はこれで勘弁してくれ、地味にタックル痛いんだよ!

如何に怒ってます、とアピールするかのように頬を膨らます桃井は女の私から見てもとても可愛いけど、桃井を知らない人間が見ればぶりっ子かと間違われるから、見知らぬ人がいる前ではやめておこうね。
これ見る前に桃井を知っててよかったわ…危うく引くところだった。でも可愛い。
触り心地のよい髪を撫でてると桃井の後ろにもう一人現れて目だけその人へと向ける。リコさんだ。

「鈴、ちょっと聞きたいことがあるの」

「…分かりました。桃井ちょっとごめん」

「あ、うん」

やんわりと桃井を引き離し、何かを察した桃井が何も言わず少し離れていった。もうちょっと頭撫でたかったのが本音。
リコさんはそんな私を見てか少し苦笑して、内緒話をするように小声で話しかけてきた。

「突然だけど私ね、人の身体能力を数値で見ることが出来るの」

「え。あ、はい。すごい…ですね?」

「と言っても全部見える訳じゃなくて、見える範囲でのこと。一番いいのは服を脱いで直に見ることなんだけど」

「はあ…」

「それもあってバスケ部監督を受け持ってるの。説明はこのくらいでいいかしら」

本当に突然何を言い出すんだ、って勢いで監督の由来を話し出した。あまりよく分かっていないんだけど、つまり体見ただけで結果が分かっちゃうみたいなことですか。50m走も反復横飛びとかわざわざしなくても、この人にはその結果が見えちゃうってことでいいのでしょうか。ちょっとそこら辺詳しくお願いします。
とは口を挟めず、少し嫌な予感がして思わず身構えた。
…あ、待って。この人今なんて言ったっけ。身体能力が分かるとか言わなかったか。見える範囲で分かる、とか。

「あなたの身体能力、何度か視させてもらったわ。けどある一部分だけ桁が違うの。似てると言ったら伊月くんや高尾くんかしら。彼らとはまたちょっと違うみたいだけど…総合的には同じくらい…?
言いたいことは分かるかしら、鈴」

「…まあ、二人の共通点からしてある程度の予想は」

「あなた、どんな目を持ってるの?」

「……」

話を聞きながら予想はしてた。聞いてる最中は冷や汗がヤバかったし、どうやって誤魔化すかも考えた。でもどうやっても思い浮かばなかったから否定はしない。少し考えたくてリコさんを視界から外した。…にしてもこの人すごい能力をお持ちだ。リコさんの探るとは違うあの目の理由も分かった。でもなんかリコさんって感じがする。意味分からん。

どんな目をしてるのか、なんて初めて聞かれたから少なからず戸惑っている。この手の話題は好きじゃない。その私が今説明して、果たして彼女に分かるものだろうか。でもこの話に触れるのは…いつ振りだろう。最初、以来か。

「リコさんのご想像にお任せします」

「鈴」

「すみません、言えません」

「…どうして」

「この話は嫌いなもので。…すみません」

それにそんなの今関係ないじゃないですか。なんて言葉は喉から出る手前で止めた。いやいやこれはない、ないよ。言ったらリコさんとの関係が悪くなってしまう。このまま、この距離でいい。
リコさんとの間に流れる空気が変わる前に彼女から離れた。リコさんは何か言いたそうにしていたが、追うこともなく、誠凛の方へ戻っていった。

殆ど行く宛のない私はというと、どうせリコさんに知られてしまったし半ばやけくそに赤司の元へと向かっていた。赤司との距離が3mくらいになった時、赤司がこちらに気づき顔を私に向けた。それを不思議に思ったか赤司釣られて振り向く洛山の人たち。私がこっちに来てると確認した時の先輩さんたちのぎょっとした表情、ちょっと笑えた。
笑ってないけど。

赤司の前に着いたとき洛山の人たちはいなくて近くには赤司のみ。気を利かして離れたのだろうか。それとも近づきたくないとか。…どちらにせよその方が都合がよかった。
さっきの言い合いを掘り返すつもりはないけどなんか纏まらないから表だけでもスッキリさせておきたい。と、言うわけで。

「ねえ赤司」

「なんだい」

「私さ、バスケは好きなんだけど、和成の相手をする程度でバスケ部じゃないじゃん。でもここに来る直前、和成の部屋に入ろうとした時だったから、ただ偶然巻き込まれただけなのかもしれない。…ねえ、それじゃ駄目なの?」

「偶然、ね」

「今はそういうことにしておいてもらえない?」

「……」

ちょ、無言怖い。
考え込んでるところ悪いんだけどもう一個あるから。

「あとリコさんが知ってるから言うけど」

「なんだ」

「さっきの隠し事…だけど、私も一応目は持ってる。使えないけど。以上」

「は、」

それだけ言って早急に踵を返し逃げた。元陸上部舐めんなよ、超本気で走って和成のとこ行ったわ。赤司と和成のいる秀徳とはそこそこ距離はあったものの追い掛けられていないことから追及する気はないらしい。後で何か言われそうだけど。現にめっちゃ見られてる。
和成にさっきの事を、リコさんと赤司には目の事を知られた、言ったと伝えるとそっかと返された。要件はそれだけだったので秀徳からは離れるとしよう。

「なあ、鈴。そんなに怖がらなくてもここにいる奴らなら大丈夫だと思うぜ?」

「…私が大丈夫じゃない」

去り際に礼を言って特に行く宛てもなく体育館内をうろついた。結果、落ち着いたのが跳び箱を背にして座ったあの場所という。跳び箱って中々にいい背凭れだと思うんだよ。固いけど。
探索から帰ってきた時よりも疲れた気がする。…寝そう。

20150313


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