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パッと電気がオンオフに切り替わるように、この体育館の空気も一気に変わった。事の始まりは赤司くんの一言だった。それに真っ向から言い返した鈴。更にピリピリとしだす室内。ただでさえ静かだったのにそれ以上静かになった。
息をする呼吸音すら聞こえないほどの静寂。

どうして彼女は喧嘩を売るような態度を取るのか。彼女が黒だなんて誰も言ってないし、周りがどう思ってるかは知らないが少なくともうちの部員は誰もそんなこと思ってない。
確かに彼女がここに居るのは不思議だし、疑いたくなる気持ちも分かるけど。でも相手は女の子、しかも一つ年下。どうやってそれが出来るというのか。

これだけバスケ部員がいるとバスケに恨みのある人間か、或いはキセキの世代を恨む者の仕業か。そう考えるのが普通で一般的。けれど彼女は兄がバスケ部で、本人は覚えていなかったようだけど過去に桃井さんを助けてる、らしいし。ただそれだけだし、身体能力的に言えばバスケはちょっと齧ってる程度のものだろう。

バスケをしてる人でもないのに、ましてやキセキの世代すら知らない子が、こんなおかしなことをするとは考えにくい。知らない、が“フリ”だとしたらちょっと危険人物だけど。
でも私には一つだけ気になっている所がある。ずっとタイミングが掴めなくて聞くに聞けていない。この後に聞くのもちょっと考えものである。

ピリッとする空間の中、周りは赤司くんと鈴の探り合いを見守ってたり、片方の肩を持っていたりと分かれている。誰も口を挟もうとはしない、否出来ないのだ。口を挟めば、どうなるか分かったもんじゃない。
尤も、誰も口出しするなという雰囲気が赤司くんから流れ出ているような気がして、何も言えないだけかもしれないが。

「私が君たちをここに連れてきた犯人…そう考えてるんでしょ、赤司」

「……」

「…どうしてそう思うの?その根拠は?」

赤司くんの無言に、より一層意地悪そうに笑みを浮かべる鈴はまさに犯人みたいだった。彼女が黒幕、とは思っていない私だけど、もしかして本当は黒なんじゃないかと思ってしまう。私は彼女を信じたい。だってあんな子が…するとは思えない。根拠などない。ただの女の勘。

赤司くんはまた目を細め、相手を見据える。少しずつ今よりも確実に空気が重くなっていく。

「ならばどうして君がここに居る」

「それは私が一番聞きたい」

鈴が素早く返し、また沈黙が流れた。鈴は至って堂々としていて、逆に清々しい。外されない視線に無意識に空気を飲んだ。
どちらかの口が開かれる前に誠凛さん、と小声で呼ばれる。突然呼ばれたことに驚きながらもそっと後ろを見ると、そこには彼女の兄でライバル校に所属する高尾くんの姿があった。いつの間に…なんて驚く暇もなく、彼は口を開く。

「誠凛さんは鈴の事どう思ってます?」

「どうって…」

隣にいた日向くんが呆れ気味に言葉を濁す。彼は部員一人一人の顔を見渡して最後に私を見た。小さく頷いた私を見た彼は再び高尾くんを見る。
日向くんが鈴について言うと高尾くんは「そっすか、」とどこか安心した表情を見せる。けどそれは一瞬だけで、次には申し訳なさそうな、呆れてるような表情をする。

「今二人がやってるこれなんすけど…」

眉を下げて困ったように言う高尾くんの言葉に、思わず鈴に振り返った。……よく見れば目が笑ってる、ようにも見える。再び高尾くんを見ると変わらず困った顔で、けどどこか楽しそうに「そういうことなんで」と言ってどこかへ行ってしまった。

赤司くんと鈴を見ると一向に雰囲気は変わらず…いや、明らかに赤司くんの機嫌が悪い。背中からドス黒いものが見える。何アレ、と思わず二度見してしまった程だ。
先程高尾くんに言われた一言を思い出しながら事の成り行きを見守る。

「ある意味ヤバイかもな…」

日向くんがぽつり呟いた。もう緊張感などない。ただただ目の前でピリピリした二人を見守るだけ。多分皆呆れた目で鈴を見ていることだろう。
それでも頭の隅では高尾くんの兄っぷりを見せられ、少し彼のプレーの片鱗が見えた気がしてなんとなく納得してしまったという謎の感動があった。

「これどうなるんでしょう…」

今度は黒子くんが呟いた。それには誰も答えず、答えれず、事の流れを見ていた。
終わったら一言鈴に言わなくちゃね…。

20150226


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