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「結果から言えば4階までの道中は何も出なかったわい。第1音楽室では紙しか見つけられんかった。あとは…」

ちら、と岡村さんが私を見る。おおっと、これは私が話せってことでしょうか。それとも話すのを躊躇ってます?…何故今更。
大丈夫との意味を込め、小さく頷いたと同時に別から声が発せられた。

「天井にねー、いたんだよ、化け物。んで、鈴ちんが襲われかけた」

何と声の主は紫原だった。こちらはあっさりと言いますね。最早清々しいよ。岡村さんが躊躇った意味、な。
襲われかけたと言い切った瞬間、各方面からあらゆる視線がビシビシ来た。色んな意味で注目されてる、気がする。左手をぷらぷらと左右に揺らして、紫原が引っ張ってくれたので無傷です、と言えば安堵の息を洩らす者も入れば、相変わらず無反応な者もいる。
なんで見ず知らずの人を心配するんだろ。優しすぎか。

「あとねー、あそこ南館って言うんだってー。帰る途中見つけた」

「…何それ知らない」

衝撃の事実だ、だがしかしよくやった紫原。これ二つある校舎の呼び方が楽になれそうだ。図書館と第1、第2音楽室があるのは南館……と。じゃあもう一つはなんていうんだろう。南だから…北?真正面だしなあ…。いや待てよ、西の可能性も、東の可能性もあるぞ!なぜいつから東西南北として考えているのか。もしかしたら他の言い方もあるのでは。まあ考えるより答えがあるならそこ見ればいいだけど。

私がそのことを知らない理由はなんとなく予想がついてる。抱えられ揺られ、正直周りを見るう余裕はなかった。だって地味に高いし。高いとこは好きですけど…それとこれとじゃ話が違う。

あれこれ言い訳を考えていると間延びした口調で「次アンタの番だよー」と言われた。…私に言わせるか、陽泉。何を話せば…見つけたものの事言えばいいの?
何を言うべきか戸惑うそれだけでも皆の視線が集まり、痛い。目立つって、本当に嫌。

「化け物云々の前に見つけた紙がこちらです。…和成パス」

「そこは鈴が読めよ」

ですよねー。視線たちに耐えられなくなった私は和成にパスした。もちろん紙も渡そうと。しかし失敗に終わってしまった。
周りにバレないよう小さく舌打ちして、渋々紙を読み上げることにした。…そういえば読み上げるのって初めて。もちろん字を見るのも初めてだ。
それでは読みます。と前置きして紙に目を落とした。

“叩いてもけっても泣かない。気持ち悪い。
 なにがなんでも泣かしてやる。”

「これは「R」くんのものかと」

筆跡見る限り汚いし荒いし、男の子かなって思うんだけど、どう思う和成。そっと聞いて紙を見せると確かに、との声をいただき、このRは男の子でいいと思うんですが赤司どうでしょう。
…とか、いつのもノリだったら聞けるのに。聞けない代わりに目で言ってみようと赤司をじっと見つめた。すぐさま合う二人の視線。何か言う?言う?

「他に何か報告すべきことは?」

それにはないと伝えるべく首を横に振った。…いやあの話はどうだろ。念のため職員室の事は…と和成に聞くと黒子と火神が言ってたぜ?と。どうやらそれぞれで報告し忘れてたと赤司に謝っていたらしい。…うん、あの時は私も忘れてた。ごめんね。
さて、他に何か言うことはあるだろうか。

「ところで高尾さん」

宙を彷徨っていた私の目はやけに凛とした声に地上に戻された。人って考える時宙を見るよね。そういうこと。
凛とした声の主である赤司に目を向けると、彼はこちらを真っ直ぐに見つめている。その目は獲物を逃すまいとする獣…いや彼の場合、魔王かな?
視線が絡むと逃れなくなる。視線が、威圧が拒否権を与えてくれない。

「やはり君がここにいることはどう見ても異質。君が隠している事、話してくれるね」

疑問形ではなく、もはやそうしろと言わんばかりの言い方。あの目と雰囲気、初めて彼を見た時のものに似ている。それに隠している事とか…見抜かれてる感じが凄いけど、多分彼が思ってる隠し事と、私が言ってないっていう隠し事とはまた別な気がする。
赤司の言葉に全員が私を見やる。それはもう最初の疑心に満ちた目で。ああ嫌だなこの感じ。また気分が悪くなりそうだ。

それでも唯一の救いと言えば、一部の人間がそういう目で見てこない、どうすればいのか分からず、不安そうな目であちらこちらを見ていること。なんだかね、安心する。パニックになった人を見ると自分が冷静になれるような、まさにあの感じ。
冷静を保ちつつ、私はゆっくり口を開いた。

「あー、もし赤司が私を黒幕だとか敵だとか思ってるんなら、それは大きな間違いだからね?でもね、そういう風に思ってるなら動機ってゆーの?…もちろん言ってくれるよね?」

喧嘩を振ってきたのはそっちだよ?
きっと今私悪い顔してるんだろうなーとか頭の隅で思いつつ、赤司を睨みつけた。赤司の目は細くなり、同じように睨むようにこちらを見てきた。
隣の和成は「あちゃー」と手を額に当て、まさにやっちまった感を全身で表現し、そっと後ろに下がって行った。

実を言うとね、私こういう展開大好きなんだよね。
黒だと思い込んでだ相手が白だと分かった時のあの気まずそうな顔!赤司のそんな顔見て見たいんだよね、とか。きっと和成はそういうの分かってるからそろそろ裏で手を回してくれるはず。いやいや女の勘なんで分かりませんがね。

うん、やっぱり自分から言うのはやめにしよう。
ちょっとだけ茶番を始めようと思います。

20150217


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