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「あららー?鈴ちんほっぺに血ー付いてる」

「怪我してたのかい?戻ったら手当てを…」

「違います断じて違います。化け物の口から出た…うえ」

「だいじょーぶ?」

「心配してるなら降ろして…」

化け物を撃退(?)したってのに、逃げる必要もないのに、未だ紫原に抱えられたまま体育館に戻ってる最中。一方の私は、抱えられてるせいでよく揺れるし、さっきの化け物がトラウマのせいで気持ち悪いってのもあって、ダブルで気分が最悪。もうどうにでもなれ、です。

…ゲームの中では○ッカーっていうんだけど、どのシリーズも出てきたら必ずボコボコにしてるから「トラウマ?何それおいしいの?」状態でヒャッハーなんだけど、ああごめんなに言ってるか分かんないよね、私も分かんないよ。
とにかく今まで(ゲームの中で)フルボッコにしてたからその報復かとも思っちゃったんだよね。帰っても暫く○ッカーとやり合える気がしないよ…。

「てか鈴ちんってなんだし。黄瀬みたい」

「それは“〜っち”だし。てゆーか今更ー?」

「今更もくそも、今初めて呼ばれたわ」

「鈴ちん口悪いよ〜」

「兄貴がいたらそうなるわ」

「ん〜そうだね」

「なんで納得!?」

「Wow!これがJapanese漫才かい?」

「漫才ではないです氷室さん。あとさっきからその流暢な発音は何です!?帰国子女ですか!?あともう下ろしてください歩けます!」

「はは」

突っ込み疲れました。…突っ込みか?これ。
紫原は一向に下ろしてくれる気配ないし、氷室さんはおかしそうに笑うし、その他三人は三人でお喋りしてるし。氷室さんよく見たら美形のイケメンだった。見てくれ、あの笑った顔。よくよく考えたら化け物撃退(仮)はすごくかっこいい事だけど、第一印象が皆よくないものばかりだから中々好印象にまではいかないんだよな。
ま、それはさておきですね。

「戻ったぜー」

「やっと着いたアルねー。疲れたアル」

「うむ。ワシは一度赤司の元へ行ってくるぞ」

着いてしまった体育館。結局下ろしてもらえなかったよ、ちくしょう。なんとか他の人の注目の的にはなりたくない。くそ、こうなったら暴れてでも下りよう。……何故さっきそうしなかったんだ私は!

「もういいよ、アツシ。ご苦労様」

「んー」

氷室さんの一言でストンと丁重に下ろされた。氷室さんの一言で下しただと…。それよりも…久しぶりの地面!会いたかったぜ地上よ!私もう君とは離れないよ。
入り口前で下してもらえたので誰かに見られた、ということはないと思う。一部を除いて。

紫原たち陽泉からふらふらと離れ、出来るだけ端っこの方へと座った。近くになぜか跳び箱たちがずらりとあって、ちょうどいいとばかりにそこを背凭れに使わせてもらった。…あ、正面にバスケットボールがある。確か彼ら全員バスケ部なんだよね。息抜きにバスケとかしないかな。
……いやいや別に見たいとかそんなんじゃないから、本当。

「疲れちゃった?」

「…ん、和成?」

目を閉じようとしていた時に、突然ひょっこりと現れた和成。おかげで寝損ねたよ。寝たらぶっ飛ばされそうだけど。
でも、うん、多分疲れているんだと思う。眠いよりだるい。

「大丈夫か?って血!?」

「あー…違う、これ化け物の。やべ、忘れてた」

急いで袖で擦ろうとしたら、横から伸びた手に止められた。え、と思うもすぐさま代わりというように柔らかい布の感触が頬を撫でる。もしかして、和成に拭かれちゃってます?何で?…ハンカチ?

「和成、ハンカチ汚れるからやめて」

「ハンカチはすぐ洗えるだろ?制服は早々洗えねーって」

正論過ぎて何も言えないが、ともかくやめてください。でも何か言わねばと口を開きかけたところで「終わりっ」と聞こえ、捕まっていた手も解放された。中途半端に止められていたその手で血があったであろうところに触る。多少変な感じがまだ残ってるが粗方取れたのだろう。濡れてるような感じはなかった。

「ちょっと乾いてて全部取れたわけじゃねぇけど」

「うん、ありがとう」

やはり少し血の跡は残ってしまってたか。すぐ拭かなかった私が悪いわけだし仕方ない。水道があったら取りたい。あーでも水が通ってたらの話。和成のハンカチをちらりと見たら頬についていた血が見えた。片腕の化け物の血飛沫みたいに、ゆっくり消えてくれるわけではないらしい。消える事自体おかしいんだけど。うーん。

なんで頬に血がついてたのか聞かれたが、分かりやすく天井にリッ○ーがいたと言ったら爆笑した。こいつはそういうやつです、知ってる。
知らんフリして過ごしていたら緑間がやって来て集合だと教えてくれた。それを機にぱっと笑うのをやめた和成。ええなにそれすごい。立ち上がりながら横目で緑間を見ると、移動もせずじっとこちらを見ているようだった。…待っていてくれてるのだろうか?私を、とは思ってないけど。意外といいやつなんだなぁ。

「ねぇ緑間」

「…なんだ」

「身長いくつ?」

「どしたの鈴ちゃんww唐突すぎるww」

「いや、背すごく高いから、いくつかなって」

だってさ、立ち上がったら緑間が踵を返して、体育館中央に向かうからその背中を追って見上げたら、紫原ほどではないが背高いんだもん。これは聞かなきゃな。
確かに場違いな質問だと思うよ。突拍子な事を言ってる自覚はあるよ。でも気になるじゃないか。いつ聞くの?今でしょ!ごめん古かったわすまん。

「…195なのだよ」

「たっか!」

「すごいだろ、うちのエース様!」

「和成が如何に身長低いか分かった」

「やめてぇww」

素直に驚いた、二重の意味で。すごく背が高い事、素直に答えてくれた事。ほんのちょっとしたことだけど、なんだか嬉しい。

「あまり、大声で言わない方がいい」

「え、なにが?」

「…気にしてる奴も、いるからな」

ぼそっと言った言葉に疑問を感じながらも、定位置に座りながら全員を見回した。……うーん、気にしてるのはざっと3、4人か。気にしたところでしょうがない話なんだけどな。ああいやこっちの話。

「陽泉と高尾さん、報告を頼む」

ぼうっと辺りを眺めてたら赤司と目が合い、その瞬間ぞくりと背中に悪寒が走る。背筋は伸びるわ、不思議とビビるわで、どういうことなの。よく分からないけど赤司恐いと言うレッテルが私の中で付けられた瞬間だった。和成の制服の袖を、無意識に掴んでしまってるのがその証拠。

………やっぱり赤司も、気にしてるのかな。身長。

20150213


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