27 一通り、楽器の裏と横は見終わった。あとこっちで見てないと言ったらピアノと、児童用椅子。やっぱ小さいね。椅子も裏を見るべきだろうか、なんて思いながらグランドピアノに近寄る。 小学生の頃、音楽室に置いてある大きなピアノがすごくて、授業前とか授業後触ってたっけ。ピアノ弾けないけど。唯一弾けたと言えば猫踏んじゃっただろうか。確か小3で覚えた気がする。 思い出したらちょっと触りたくなってきた。だが、触らない。多分怒られる。ビビらせんな!とか言って。……自分で想像しておいてなんだけど福井さん辺りが言いそう。 心中で苦笑いしてピアノの下に潜ってみた。あー某見た目は子供、頭脳は大人漫画にこういうシーンあったよね。あれ何かあったよなー、なんだっけ。それらしきところを探るもやはりなし。中々にない体験をさせてもらった気がする。 ピアノ下から出て、ピアノを中心に辺りを見回していると頬に何か付いた。突然の雨、みたいな感じで降ってきたからちょっとだけ驚いた。雨じゃないのは分かるんだけど、なんだろう。何か付いたであろう頬に触れると指にもその感触が移る。見ると赤い何かが指先に付いていた。…んん?どっから来たこの赤。 ――その時一瞬だけ嫌な予感が頭に過る。 いやいやいや!ここゲームじゃないし、何よりありえないっしょ!ああそうだここは非現実的な場所だった。でもだからと言って…いやいやまさか、ね。 一度浮き出た恐ろしい仮説はそう簡単に拭い切れなくて、意を決して恐る恐ると上を見上げる。 「…ぁ」 その仮説は嫌なことに当たった。 天井に張り付き、嫌な笑みを浮かべる化け物。目は赤黒くなった包帯を巻いているため視界は遮断されている。だが逆に聴覚は他のよりいいだろう。もう見た目が某ホラーアクションアドベンチャーゲームの脳味噌野郎に似てる。私初見でアイツにトラウマが…。 そんなこと露知らずに“ソレ”はニヤリと笑う。開いた口からはぽたり、ぽたりと赤い何かが垂れ落ちている。それが落ちる先は私の頬で、2、3滴そこに落ちてきた。気持ち、悪い。 ――“ソレ”は目は見えていないはずなのに、確かに私を見ていた。今にも襲い掛かってきそうな勢いで、私は動くに動けなかった。 息を、飲んだ。 「高尾!」 私の異変に一早く気付いた福井さんが叫んだ。それを合図に“ヤツ”は私目掛けて 落ちてきた。 「っの…!」 “ヤツ”が来る一瞬手前に、私の体は勢いよく後ろに引き下げられた。そのおかげもあって私は化け物に襲われることなく、擦れ擦れで交わすことが出来た。全部スローモーションに見えて、本当に一瞬だったと思う。 引っ張ってくれた人物の顔を見ようと見上げると、偉く目が吊り上がった紫原が私を見下ろしていた。目が合うと抱き抱えられ、ってちょっと待って状況が呑み込めない。なんで私紫原によくに言うお姫様抱っこされてんの。え、ちょっと! 「じっとしてて高尾ちん」 「っ出来るか!せめて下ろせ!立てるから!」 「行くよアツシ!」 「え、あのっ!?うわっ」 そのまま紫原に抱えられたまま第2音楽室を出ていく。全員逃げるように走っているが、今どこを走っているとか見れなくて、何もすることがない私はただ先程の事がフラッシュバックする。走っている方がよっぽどいい。下ろしてと悲願しようにも聞き入れてはくれないだろう、何故なら皆必死で走っているからだ。仮に下ろしてくれたとしても時間のロスになり、化け物との距離は一気に縮む。最悪…、…分かってるけどこの体制はない。これはヤダ!下ろしてくれないなら担いで!横抱きとかめっちゃ恥ずかしいんですけど!! 「チッ…一向に離れないな」 「…氷室?」 斜め前を走っていた氷室さんがくるりと方向転換。少し遅れて紫原も立ち止まり通り過ぎてしまった氷室さんの方を向く。そのおかげで氷室さんだけじゃなく、あの化け物も見えてしまうからもうほんと嫌です。 嫌って言えたのもほんの一瞬だった。 迫る化け物、逃げようとしない氷室さん。氷室さんの名前を呼びかけたとき、バキッという鈍い音の後化け物が後ろに下がって行った。……何が起こったと言うのでしょうか? プチパニックを起こしたまま氷室さんを見てみると、無傷どころか片足が蹴り上げのポーズを取ってて、ていうか氷室さんで化け物がどうなったか見えない。その方がいいんだけどちょっと待って。 「室ちんすげー」 「さすが氷室アルな」 「お疲れー」 「よくやった」 陽泉ちょっと待ってどういうことなのこれ誰か説明してくれる!?あ、あといい加減下ろしてください…!恥か死ぬ…!呑気に会話してないで下して…!そう訴えるが誰も耳を貸してくれず。 「一先ず戻るか」 「そうアルね。やることは出来たことだし」 「アツシ、彼女はそのままお姫様抱っこしておいて」 「はーい」 もうやだ恥か死ぬ(大事な事なので2回言いました) 20150207 |