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体育館に着くなり散々だった。中に入ると突然誰かに激突されるわ、遠くから聞いたことある笑声が聞こえるわで。激突してきた人物が桃井だから、あまり強く言えなかったけど。
近くにいた黒子はびくついて始終無言だしむしろ逃げたし、黄瀬も黄瀬で苦笑い浮かべながら先に戻ってた海常さんのとこに行くわで。まあ黄瀬はいいんだけど、黒子せめて何か言えよ。

黒子も、黄瀬も、途中で別れた人たちと談笑している。待っていた人たちも安心したように笑ってる。…やっぱ待つのは不安、だろうか。
未だ引っ付いたままである桃井の頭に手を乗せて優しく撫でていると、正面に誰かやってきた。目だけそちらを見ると毎日見慣れた…言わずとも和成がいた。先程まで爆笑してたなんて微塵も感じられない。

「鈴、おかえり」

「…ん」

暖かい笑みと共に言われるおかえりに胸が少し暖かくなった気がした。
…周りは皆バスケ部で、私だけ知り合いがほとんどいなくて、信用できる人とか和成くらいだし、顔見知りと言えば桜井くらいだし、明らかに場違いというか私だけが浮いているというか。

本当はね、ちょっと寂しかったんだ。和成と一緒じゃない時は怖くて、不安で。ここで全員と顔を合わせてからちらちらくる疑心の目も、赤司や黒子から時々向けられる探るような目だったり。…ちょっと意味合いは違うけどリコさんも時たま探るような目を見せる。探るっていうより…観察?なんにせよあれもちょっと、なあ…。

あの時言われた黒子の一言は謎のままだが、怪しまれていないというのは表情でなんとなく分かった。この予想が当たっていることを強く祈る。

こういうホラーっぽい雰囲気は割と平気だ。怖いのは怖いけど、キャーとかぎゃああとか叫ぶほどでもないし。あーでも化け物が近くにいたりしたら…どうだろうね。

まあとにかく、私は寂しくて心細かった。
化け物さえいなければ、強いて言うなら追いかけっこ系の(in化け物)ホラゲより、RPGっぽい(in化け物)ホラゲの方が良かったけど。

……っていうことを今、知ったわ。うん。きっかけは和成の「おかえり」って言葉。やっぱ嬉しいね、改めて思うよ。

心が暖かくなった私は一つ決心する。要素があればあの事を言おうと思う。要素があって必要、ならば。
彼らならいい。きっとこの場限りの付き合いになるだろうし。某感動ホラゲなら忘れてる可能性だってあるんだ。…の前に捕まってバッドエンドとかにならない様にしないと。

「桃井、大丈夫?」

「…うー、鈴ちゃん無事でよかったよ…」

「ふふ。ところで桃井」

「ん?」

未だに引っ付いてる桃井の頭を優しく撫でながら、ふとずっと気になってたことをここで確認しようと思いついた。

「青峰って桃井の彼氏?」

「え!?ち、違うよ!青峰くんはただの幼馴染!」

「あ、そうなの?てっきりカレカノかと…」

「そんなんじゃないよ!それに私には………」

それからもごもごと真っ赤な顔で俯いてしまった桃井に苦笑いが出た。これは別に好きな人がいると言う事かな。それとも単に恥ずかしいだけ?…いいね、青春してるわこの子。
そんな青春してる桃井の髪はとても撫で心地が良かった。ふわふわでさらさらなんだよ。どっちかって言うとさらさらが強いけど。でもね超気持ちいいの。ジャンプーの力もあるの?それともこの子自身の髪質?後者だとすごく羨ましいんですが。

まだまだ撫で続ける私に、ハッと顔を上げた桃井に撫ですぎと怒られてしまった。ごめんねと苦笑いで謝ってその手を退けると、向こうがどっと騒がしくなる。タイミング良すぎわろただよ。タイミング良すぎて笑われたのかと一瞬思っちゃったからね!?

ちなみに今の私と桃井の体制はお互い座ってて、桃井がぎゅっと抱き着いているようなそんな体制。とても暖かくて肩の力が抜けているのが分かる。安心する…。
おかえりと言ってくれた和成は、少し離れたところで緑の…じゃーなくてっ、緑間と何か話している、らしい。体はこっち向きだけど、目は騒がしい方を見てる。
あと青峰も離れたところで寝そべってるのが見えた。何やってんだアイツ。寝るの?こんなところで寝ちゃうの?すごい度胸の持ち主だね?

そろそろ集合するだろうし近くにいた方がいいよね、と桃井を話して立ち上がる。一歩歩いたところで後ろに手を引かれ、反射的に引いた本人を凝視する。

「どうしたの?」

「あ、あのね鈴ちゃんっ」

「…ん?」

何やら頬が赤い桃井氏。熱でもあるの?という考えが一瞬浮かんだが。体温は熱くなかったしこれは違う。じゃあなんぞ。

「私、私……」

「ゆっくりでいいよ?」

「て、ててっ、テツくんが好きなのっ!」

「……はい?」

「鈴ちゃんには言っておこうと思って!」

何故今このタイミング。
言えてすっきりした桃井氏は私の腕そのままに立ち上がりにっこりと笑う。

「だって鈴ちゃんとはお友達になりたいもん!」

「は…」

思わず目が点になり固まる私の横を通り過ぎた桃井は一目散に青峰の方へ行ったようだ。後ろで桃井と青峰の声が同じような場所から聞こえるから、多分間違いない。

ていうか、今なんと。桃井氏がぶっ飛んでて私の思考回路は急停止よどうしてくれんの。
数秒脳の再起動に力を入れていれば薄らと先程の会話がリピートする。桃井が言葉を詰まらせたあの時。
――そんなんじゃないよ!それに私には……。

あの続きを今言うか。それとも一つ衝撃な発言をされて私の脳は一時ショートしてしまったらしい。黒子もある意味ぶっ飛んでるけど、桃井もぶっ飛んでるなあ。

「鈴ー集合掛かったぜ。どした?」

「なんでもない。軽くショートしただけだから」

「え?」

和成の言葉で中央の方を見れば、また彼らは大きな輪の形に座り込もうとしている。
早く行かないと私の場所なくなっちゃうんじゃないのか?
……それだけは勘弁。

20141202


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