21


無事黄瀬たちを見つけて、日向さんが他の海常さんたちのこと、今の状況のことを簡潔に伝えている間、私はこれまた簡単に教室全体を見ていた。
円状に並べられた机、椅子、此処とは反対側にある黒板。ちょっと大きいように見えるのは気のせいかな。真っ赤な絨毯、とエアコン…くらいか。扉は一つだけ、黒板側に合ってこことは正反対に位置する。
図書室も確か絨毯だった気もするけど、此処とあっちとのじゃ質が違う。踏み心地は大変よろしい。足音も吸い込んでしまう。

「黄瀬くん、怪我はありませんか?」

「大丈夫ッスよ。ちょっと腰が抜けちゃって、動けるようになるまでじっとしていただけッスから」

「それならよかったです。…そろそろ体育館に戻りましょう。皆さん、きっと心配しています」

「そうッスね。早く戻って無事だって伝えないと」

「なんかすまねぇ」

「いいっすよ気にしなくて。無事で何より」

「今なら何もいない。今の内だ」

「高尾!ぼさっとしてないでこっちに来い!」

「あ、すいません」

扉前には伊月さんがいて、外の様子を窺っているみたいだった。皆よりいつの間にか少し離れていた私は急いで伊月さんたちの元へ駆け寄る。見て回っていた間に離れているとかー。

慎重に扉に手を掛ける伊月さん。再度何もいないことを確認したらしく、扉を開けた。

「…!」

「余所見すんな、とっとと行くぞ」

「…うっわ」

全員が出て、最後から二番目だった私は黒子や黄瀬たちの見る方に釣られる様に左を見た。そこには…まあ、化け物のぶつかった後と言いますか。血飛沫と言いますか。これ見たの3度目になりますでしょうか。もう見たくない。日向さんや笠松さんが彼らに一喝する。その間に最後尾にいた伊月さんが扉を閉める。
そういやここどこだよー。右、左と上を見て見つけた表札には会議室と書いてある。今日の鈴ちゃん冴えてるー(笑)
…虚しい…。

「皆さん怪我とかしてませんか?」

「俺らは大丈夫だ」

「黄瀬も平気?」

「え?う、うん、平気ッスよ」

「問題ないそうです。…怪我と言えば、救急セットとか持って帰ります?」

「おお、そうだな。ちょっと寄っていくか」

会議室の隣は保健室。だから怪我とかしててもここに行けば治療はできる。出来る限り、だけど。
がらりと音を立てて保健室の扉が開く。やっぱり消毒液臭い。ちなみに一人保健室に行かせて持ってくる間に化け物が着たら嫌だからと全員で保健室に入った。皆平気そうな顔してる。…よし、慣れよう。

「この匂い苦手?ハッ!甥に合点承知!キタコレ!」

「伊月黙れ。あと意味不」

隣でやさしく声を掛けてくれた伊月さんだが、すぐ何かにハッとして親父ギャグを意気揚々と披露した。最初黒子が止めてたのはこれかと納得し、苦笑いを残して離れた。日向さんの素早い突込み、よかったです。

「伊月先輩も言っていましたが苦手なんですか?」

「黒子そこにいたのか。苦手というか…慣れてないというか」

「そのうち慣れますよ」

「そのうちな」

「救急セット見つけたぞ。戻るか」

結局探せてねえ…。
笠松先輩の手には救急セット。逃げて疲れているであろう笠松さんに持たせるわけにはいかないと自ら前に出る。

「笠松さん、私持ちます」

「はっ?っだ、だだだ駄目だ!」

「え」

急に顔を赤くし救急セットを落とさず後ろに下がっていった笠松さん。…一瞬で笠松さんが遠くなるから何事かと思ったよ。
呆然と立ち尽くす私の隣に眼鏡のお兄さん…中村さんがそっと来て「あの人女の人が苦手なんです」とちょっと申し訳なさそうに言った。…ふうん。少し悪戯心が芽生えてしまったが、今は封印するとしよう…。

「とりあえず笠松さん。手持ち無沙汰な私に持たせてください」

「っあ!?」

笠松さんの手から救急セットを奪い、さあ出よう、と体を向けた先に黄瀬がいて、目が合ったと思えば溜息を吐かれた。おいこら人の顔見て溜息とはいい度胸してるね兄ちゃん。

それはさておき、保健室から出てさあ戻るぞっていう時。

「!全員走れ!」

伊月さんの大きな声が廊下に響くのと同時にぺたぺた、ぺたぺたと裸足のような足音が、あちこちで重なって聞こえた。黄瀬が上擦った声を上げたのは聞き取れた。
音のする方を確認する間もなく誰かに腕を引かれる。引かれる腕の先を見ると黒子がいて、その隣に伊月さんがいる。
引っ張られるまま進むが、真っ直ぐじゃなくて階段のある方に走っていた。こっちって確か陽泉さんが行った方…なんて思い出す余裕もないくらい引っ張られたまま走る。

どうして曲がったのか、どうして真っ直ぐに逃げないのか聞けないまま階段を駆け上がる。数段上がった時ちょっとだけ横を見たら四つ這いらしき化け物と、人型の…多分片腕のないやつ。それらが現れていた様だった。
見たのは一瞬だけだったけど、追いかけてくる様子は…なかった。

2階に上がる踊り場で黒子が急に止まって、結局私が引っ張ることになった。なんか「え?」とか言って頭抑えてたけど大丈夫でしょうか。
…ていうかこの人軽くない?待ってこれセクハラになっちゃう?いやいや待ってよ別に知りたくて思ったんじゃないしどうでもいいですし。でも見た目に反して軽くない…?
あ、もう考えるのやめよう。そうしよう。

「……今のとこ、何も見えない。多分大丈夫だとは、思う」

「少し休憩してすぐ戻りましょう。今は下に行けないと思うので、このまま行きましょう」

「そうだな…」

…伊月さん、目持ちらしいだけど、あれくらいの距離なら見えるんじゃないのか。それとも範囲が狭かったりするの、かな。わざわざ本人に聞くまででもないし、帰ったら和成にでも聞こう。聞くこといっぱいあるなー、でもってフラグもいっぱいー。どんどん建築して行こうか、私。

「はあ…高尾さん、息切れ、してないです、ね…」

「んー?これでも昔陸上やってたから。そういう黒子は体力ないね?」

「ほっといてください…」

「図星か。大丈夫ー?」

床でぜーぜー息を整える黒子以外は殆ど平然としている。多少の乱れはあるけど、黒子が一番酷い。背中を擦ってみているが、少しでも楽になればいいと思う。黄瀬も呆れた様な声を、懐かしむような声で一緒に傍にいる。

「黄瀬も息切れしてないねー」

「普通はここまでいかないでしょ。黒子っちが体力なさすぎなんス」

「てことは探索で走るのはキツくなるかな?」

「その場合、青峰っちや火神っちがいれば多分担いででも行くと思うッスよ」

「青…ああ、彼か。同中?」

「そうッスよ!あと緑間っちも、紫原っちも、桃っちも、赤司っちも!」

「まさかのカラフルズ全員同中にどうしていいものか」

「おーいそこー。話すんのは歩きながらでもいいだろー。さっさと行くぞボケェ」

「あ、すいません。行こっか。黒子も行ける?」

「ええ、なんとか」

日向さんに声を掛けられるまで気付かなかったけど、黄瀬と普通に話できてた。なんだったんだ最初のあの目は、っていうくらいに自然に話してたんだけど。もうこれからも普通に話しかけちゃっても大丈夫かな。

日向さん、中村さん、黒子、私、黄瀬、笠松さん、伊月さんとざっとこんな感じで2階を歩いていく。ついでに教室確認。
奥から3-4、3-3、3-2、3-1…3年生のクラスが多いかな、この階。となると上は…4年生のクラスがあるのかな?答えは陽泉さんから聞くとして…。
ここに来て初めて生徒教室を見たが、暗くて静かなせいもあってか教室の中が嫌に不気味で怖い。廊下ももちろん怖いけど、教室もこれまた怖い。…やだな、ここ。早く帰りたい。

怖さ軽減のため、私は誰かと話すという選択肢を取った。

「さっきから気になってたけど、名前の後の“っち”ってなに?あだ名?」

「そうッス!オレ、認めた人には“〜っち”ってつけるんスよ」

「へえ、仁義ね。黒子にも付けてるみたいだけど…その、言っちゃ悪いけどどこら辺を…?」

「黒子っちは、パス回しがすごいんスよ!」

「え、バスケ…の?」

「はい。パスだけは自信ありますよ」

「えっマジで?もしかして黄瀬もバスケ部?」

「バスケ部ッスよ。ちなみにここにいる人全員バスケ部ッスよ?」

「……マジで?」

ここに来て何回「マジ」を使っただろうか…。というかまさかの、全 員 バ ス ケ 部 。私死ぬじゃんww精神的に。
私以外バスケ部…桃井もバスケ部か。監督ってことはなさそうだし、今度こそマネージャーやってるのかな。大変そうだと他人事のように思った。だって他人ですもの。

「高尾サンは何か部活やってるんスか?」

「部活自体は入ってないけど、いろんなとこのお手伝いはしてるかな」

「陸上には入ってないんですか?」

「うん。多分、もうやらないかも」

「えーじゃあバスケマネなんてどうッスか!?」

「マネージャー?和成ので手いっぱいだわ」

「何か手伝いでもしてるんですか?」

「んー、休みの日に練習に付き合ったり、手伝ったり、付き合ったり…」

「全部一緒じゃないッスかw」

どういうわけかバスケの話になっていく。やっぱバスケ部なんだねー。バスケの話になっていくと表情がさっきと違う。心なしか先輩さんたちの雰囲気も柔らかい。

「バスケ出来るんですか?」

「ちょっとだけ」

「えぇ!?じゃあ今度オレとワンオンワンしましょッス!」

「わんわんお?」

「ワンオンワンッス!」

「わんわんお?いいけど、お手柔らかにね。えーと、ワンオンワン」

「わんわんおッス!……あ」

「…ぷっ」

「…ぷっ」

私が吹き出すのとほぼ同時に黒子も吹き出し、笑っていくにつれ黄瀬が顔をほんのり赤くして、初めは怒っていたが次第に笑って、気付けば周りいる先輩さんたちも笑っているのか肩を震わせていた。

1階に続く階段前に行くと陽泉さんたちと出会い、そのまま一緒に体育館へと戻った。体育館までの短い道のり、化け物は現れなかった。よかったと思うと同時怖くなった。だってゲームなら、この後何か来るかもしれない。予兆、みたいなやつ。
そもそもここはゲームじゃないんだから、そう考えること自体おかしいのだけど…。

「黄瀬くん普通に鈴さんと話してましたね」

「そうだねー。…睨まれてたの知ってるみたいな言い方ね」

「僕人間観察が得意なので」

「答えになってないけど?」

20141116
別名お喋り回。


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