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黄瀬たちを探すことになったが、やはりおかしなことは一つ。
…廊下が静かすぎる。ここに来るまでにも、誰かの足音なんて一度も聞こえなかった。職員室はナシね。あれ絶対……って言わせんなし。

「何処かに隠れていると考えた方が妥協でしょうか」

「あーそっか。隠れてるなら探しやすいね」

だとしたら、職員室以外の教室に隠れている可能性が高い。もしかしたら2階に行っちゃってるかも知れないが、それはそれ、これはこれ。一階の隠れられそうな部屋全部探して黄瀬たちを見つけなくては。化け物と遭遇しないようにせねば…って。

「ごめん私声に出てた?」

「いえ。そう言う顔していたのでてっきり」

「どういう顔?!」

私喋らず頭の中で考えてたはずなのに、それっぽいこと黒子が普通に話すからてっきり口に出してたのかと思ったじゃん!すぐに気付かず半分流してたけど。私分かりやすい顔してたかな…。鏡は手持ちにないので両手で顔認識するしかなく、ぺたぺたと地味に触ってみた。異常なし。
それはさておき、どこから探すか話し合わねば。主に参加ね。

「探すと言っても、どうやって探します?ここの鍵はすべて彼らが持ってると言ってましたよ」

「既に幾つか調べ終わってるらしい。そこを重点的に探していけば見つかるかもしれん」

そうだったのか。なら大丈夫ね。
黄瀬たちと入れ違いになっていないことを祈るわ…。

右も左も先が暗くて、いつ誰が何が来てもすぐに対応できるようできる限りの警戒は持ち、最初に調べたと言っていた事務室に行くことになった。事務室に似てる部屋と言えばPTA室。ここじゃ別々にあるし、通路を挟んで左右にあるから間違えそうだと記憶している。この覚え方。私クオリティです。事務室もPTA室も体育館に近い方だ。見つかればすぐに戻れる。…見つかれば、の話だが。

「…フラグ建てちゃったかも」

「やめてください。折りますよ」

誰にも聞こえないはずだったのに、斜め前にいた黒子には聞こえてしまったらしい。後ろに振り向いて歩きながらの折る発言。いやー素敵です。でもちゃんと前見て歩きましょう、ぶつかるよ。

「ぶつかると言えば、」

「今度は何ですか」

黒子は歩く速度を落とし、私の隣にぴったりと並んだ。あ、話するんですね。了解でーす。いやまあ、大したことではないんだよ。

「職員室で聞こえた化け物の足音。聞こえないなーって」

「…確かにそうですね。それよりも僕は“ぶつかる”からの足音に辿り着いたことに驚いてます」

どういう頭してるんですか、とじっと見られ、どう答えようか悩んでいると後ろにいた伊月さんが制止の声を上げた。全員が伊月さんを見る。伊月さんの顔には焦燥の色が窺えた。
――あ、嫌な予感。

「何か来る…!」

そう言い終えた途端、左からぺたぺたぺたぺたと子供が裸足で地を駆け巡る足音が聞こえだす。言わなくても…分かるよね。

「!前からも来てやがる!」

「戻れ!」

左の方からしか来てないのかと思えば、なんと前からも…だと。前と言えば体育館がある方じゃん。は?意味分かんない。体育館近くに化け物いたの?マジで?
前からも左からも化け物。右にも道はあるが行き止まりで、しかもあの薄暗いところ。残す道は今来た道。化け物から逃げるため、言われた通り来た道を走る。
回れ右からのダッシュって…勢いありゃ転ぶんだよ?あと転ぶと言えば急な急カーブ、とか?………あ、ダジャレっぽい。(素)

「って転んだww」

走りながら後ろを覗けば化け物の1体が転んでいた。しかも、しかもね。見たタイミングが良かったのか、つるっと滑って転ぶ瞬間まで見れたよwwwこれ笑い話にできないかな。和成は笑ってくれそうだけど…桃井たちにも話せば笑ってくれるかな。
まず化け物2体に追われている時点で笑えないかもしれない。ひええ気持ち悪い!

「日向先っ輩!どこに行く、っですか!」

「もうすぐだ!踏ん張れ黒子!」

あれ、後ろから声が……。隣で走っていたはずの黒子が、いつの間にか伊月先輩に支えられながら走っている。というか引っ張られてる。えぇー…。まだ60メートルも走ってないと思うんだけど。

日向さんがある一室の扉を迷いなく開けた。中に入って全員が入るのを待っている。そうこうしてる間に私も入る。わーい私二番手。…とか言ってる場合じゃないっすか、すいません。んー誰に謝ってんだろ。
少し遅れて伊月さんも黒子も滑り込むように入り、それを確認した日向さんが素早く扉を閉める。引き戸なので開き戸とは違ってちょっと時間も掛かってします。学校は基本引き戸だよね、なんてもう何度目になるかも分からない場違いな思考に浸っていた。

閉め終えた直後、びちゃりっ、べちゃりっ、とまるで「ひっ」スライムが壁にぶつかったような音が聞こえた。この扉前で潰れたのは確かだ。この現象…二度目なんですけど。一度目は、体育館に集合する前、片腕のない男に追いかけられて…違う、あそこで二回聞いてるから三度目?ここはよくないカウント率が多いですね?

「…誰か、いるの?」

「そ、の声…高尾、サン…?」

びちゃべちゃの音が聞こえてすぐこの部屋で引き攣った声がした。他の先輩たちも聞こえてるはず、なんだけど。だから試しに聞いてみたら答えが来ただと…!?しかも聞いたことあるような、ないような声!こ、これはもしや…!

「黄瀬くん!」

「えっ、黒子っち!?」

探していた黄瀬の声だった。ということは笠松さんや中村さんもいるのか?と黄瀬の声がした辺りにゆっくり、ゆっくり近寄っていく。声はするが、まだ姿は確認できていないのだ。
廊下よりも真っ暗なこの部屋は障害物が多い。数歩前に進んでみたら何かにぶつかった。地味に痛いです。手探りで進むしかない。

「…鈴さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫…痛かったけど」

「机、か?」

机…なるほど、だから表面がツルツルしてるんだ。暫く探ってたら目も大分慣れ始めたのか、入ってきた時よりも部屋の内装が見えてきた。床、絨毯か。部屋を見渡すと長めの机たちが大きな四角い円に並んでいた。そりゃどこ行ってもぶつかるわ…地味に痛いんだからな!ていうかなにここ?会議室?

もう一度見渡すと部屋の端っこの方に黄色がちらりと見えた。黒子たちにもそのことを言い、駆け足気味にそちらに行った。

「黒子っち!」

「誠凛…?なんでここに…」

「ご無事、でしたか」

「…よかったです」

黄瀬、笠松さん、中村さんたちを無事見つけることが出来た。
黄瀬を守るように二人は盾となって私たちを見上げたまま。

20141110


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