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校長室の扉を開けたらまず驚いた。
何、って青い髪の人の行動に。

「さつき!無事か!?」

「大ちゃん!?」

これはあれでしょうか、二人はリア充なんでしょうか。へえそうですか。爆ぜろリア充。ふいっと目を逸らした先にいたのはリコさんだった。

「おかえりなさい、鈴。怪我とかしてない?」

「大丈夫です。何もありませんでしたから。…ただいまです」

なんだこれ恥ずかしい。あちらこちらでそれぞれがそれぞれに話しかけてたりしている。この光景見たことある。最初この部屋で集まった時と似てる。…体育館にも人がいるって言うし、行ったらもっとすごい光景が待ってるんじゃないだろうか。

戻ってから、目の届く範囲で見たことだけど、黒子似の人と和成は赤司に報告して、桜井は青い髪の人に付いてって桃井の無事に安堵していた。よかったよかった。けど黒子たちに気付いて「テツくんは!?」と焦っていたがそれは桜井が説明していた。それを聞いて桃井も落ち着いた。
私は見ての通りリコさんにおかえりを言ってもらって嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。な、なんだろうねこれ。よく分かんないけど。多分、こんな場所だからおかえりって言葉にすごく安心するんだと思う。
で、ですね。黄瀬が、黄瀬がですね?

ぼっちなんですww

正確には青い髪の人にきゃんきゃんと嬉しそうにしてるんだけど、全く構ってもらえてないらしくてね。自分で言っといてなんだけどきゃんきゃんとか犬かよ。でも不思議、黄瀬(犬)ってするとすごくぴったり来るんだよね。(犬)表記が似合うランキング1位になるんじゃないだろうかね。
犬だとすれば、あの警戒心は合格と言えよう。だって大切な人を守るための動きだし。あと自分の身を守るためとか、怖いとか。黄瀬の場合前者だろうけど。

ちょっと話が聞こえたけど、皆体育館云々も言っている様だった。かく言う私もだけど。リコさんは黒子と伊月さんが居なくて不安そうにしてたけど、桜井と同じように説明すればと安心して笑ってくれた。それ体育館でやってください。
大体の説明が終わってこちらに来た和成に、あれやこれやと言われてうんうん頷いて時折リコさんも口を挟んでいた時だった。

「話は聞いた。なら体育館に皆集まるとしよう」

赤司がいきなりパンッと手を叩き、全員一斉にそちらを見た。突然すぎてちょっとビビった。校長室を出て先頭に桜井と青い髪の人。一番後ろに和成。残りバラバラに且つ女性人は前の方…そこになぜか私も入っていて(リコさんの強い希望により)必然的に黄瀬と近くなってしまった。だってこの人凄く睨んでくる人だし、…化け物かよりは怖くはないけど…嫌だよね。
だから私はそっと後ろに下がるしかなかったのであった…。

「ん?何かいる?」

「え?」

恐らくご自慢の眼で周りを見ていたであろう和成が後ろに誰かいることに気付いた。釣られて私も見るが確かに誰かいた。人…のようだけど何かおかしい。ふらふらと歩いているような。保健室の部屋の明かりもあって(付いてたっけ?)その人らしきものの顔部分が見えた。見えない方が良かった…あれ人じゃない。
幸い和成の声に反応したのは後ろの方にいた人…私以外で黒子似の人と赤司には聞こえていたらしく同じく後ろを見ていた。前の方にいる人は気付いていない。

「…どうする、赤司」

「あの様子だとまだこちらに気付いていない。気にしつつ行こう」

ついでに前の人も気付いてないよ。赤司分かってる?言わなくてい…いや言わなくていいね。一度化け物を見てしまった桃井が心配だ。あれとはまた、別物みたいだったけど。
見てしまった化け物とは距離がある。仮にこっちに来ようともすぐにまた距離を取ることも可能だろう、と。
前を向いて歩き出した私らの前で誰かが傾き始めた。…あ、嫌な予感。

「っきゃ!」

バタっ、なんて可愛い音じゃないけど桃井が転んだ。桃井の足元付近を見ると煉瓦らしきものが置いてあった。なんで煉瓦?ってああそうじゃない問題はもっと別で、

「皆逃げろ!!」

赤司の焦った声が廊下中に響く。更に後ろから何かが来る音がする。
なんでと前の人たちが振り返るがすぐに急いで走り出した。続けて私らも走る。ついでに煉瓦も拝借しよう。
桃井とリコさんも振り返ろうとしたが青い髪の人と黄瀬が体を張って防いだ。とにかく真っ直ぐ走れと青い髪の人が言う。…もうガングロでいいかな。二人もその必死さに負けて何も知らず走っているようだった。

「っ…つか、早!」

和成の笑った様な、焦ったような声が聞こえる。ちらりと肩越しに振り返って見たが確かに足早い。少しずつではあるが距離が縮められていき、遠くてよく見えなかった奴の姿が嫌でも分かった。片腕がなくて目がない真っ黒な空洞、更に目から血涙を流す男性らしきもの。バランス悪いし目ないからふつう見えないと思うのに真っ直ぐこちらに向かって走って来ている。血涙とは言ったけど固まってるのか、その血は落ちていないが…。

「赤司!こっちだ!」

声がして前を見るとガングロが扉の所にいた。あの扉…って確かリコさんと行った時開かなかった扉じゃないの?と疑問も出たが口には出さず、ていうか出ずその扉を通った。全員通るとガングロは扉を勢いよく占める。その刹那、


グシャッ


と何かが潰れるような音がして、音のした方を振り返る。そして振り返ったことを酷く後悔した。扉には先程の化け物がぶつかって、血飛沫を出し壁に張り付くように主に体部分が潰れていた。余程のスピードだったのか、それとも体が脆かったのか…。どちらにせよ気持ち悪い事に変わりはない。

「鈴?」

声とともに横から優しく肩を叩かれる。振り向くと同時に口から長い息が零れた。初めて気付く。私今息してなかった、と。いつから止まっていたのかと感じるくらい、久々に息をした気分。肩を叩いた張本人である和成が気遣って優しく背中を擦ってくれる。その間も「大丈夫だ」と何度も言ってくれて何度か頷いておいた。…殆ど無意識だったけど。これから、こんなのばっかだったらどうしよう。

前にいた黄瀬たちは既に体育館に入っているらしいので、私たちも体育館へと足を運んだ。硝子の向こうにもう一つ扉がある。その時ぴゅう、と弱い風が足元を通りった。風?ってことはここは外?辺りを見回すと黄瀬たちが来た向こうの校舎の入り口とその白い道。上に渡り廊下が二つあって、つまり3階まであるんだと分かる。空は暗いのに丸い月だけがここを照らしている。その光景は可笑しなくらいに不気味だった。

「二つも校舎あるとかすげーよな」

「不気味さも二割増しだけど」

硝子の扉を押すと小さくギギ…とまあ鈍い音が鳴る。廃校みたい、と思ったのは内緒だ。仮に廃校だとしても綺麗な方だ。中に入り硝子の扉を抑えて残り四人が通るのを待っていると、不意に校舎の方から足音がした。その場にいる五人が反応して音の下であろう方向へ目を配る。

「おい、あれ…」

ガングロが何かを見つけた。指差す方へ視線を寄せるとこちらに何かが走って来ているようだった。…よく見ると人型で片腕がない…もしかしてさっきの化け物!?
バッと先程化け物がぶつかった(潰れた)扉を見ると…いない。あるのは血飛沫が少しだけ…。

「急ぐぞ!」

全員が通ったのを確認して抑えていた扉を閉めた。そっと持ってた煉瓦も重し代わりに置いた。あまり意味はなさそうだけど、気持ちね、気持ち。決して持ってるのが邪魔だったとかそんなんじゃないから。そんなんじゃないから!
急いでもう一つの扉(恐らくこれが体育館の入り口)に向かう。既に開けた後で難なく通ったが、次いでまたべちゃりと音がした。がすぐに扉を閉める音が響く。
…大丈夫…なのか?

「鈴!大丈夫!?」

「鈴ちゃん!」

すぐ目の前にリコさんと桃井がやってくると腰が抜けた。もう一度言おう、腰が抜けた。恥ずかしい…。リコさんが慌てたように「大丈夫!?」と言ってくれるけど、それに「大丈夫です」と苦笑いで返した。床についてる足からひやりと冷たさが伝わってくる。それを感じていたら大分落ち着いた。
長く息を吐いて顔を上げた。今まで何も感じなかったけど、あちこちから感じるいろんな意味を込めた視線。
何も思わなかったはずなのに背中がひやりと冷えた気がした。

20140921


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