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「いいんスか?アイツも行かせて」

探索組を行かせて数分経った頃。皆静かにしてそれぞれ思い思いに待っていれば、突然涼太が口を開いた。
アイツ、というのは恐らく高尾鈴のことだろう。涼太は良くも悪くも分かりやすく疑うから、向こうが精神的に疲れてしまいそうだ。

初め声が聞こえて下に行ったとき、テツヤの所の監督さんを守るようにしてこちらの様子を伺っていた。どうしてあんなところにいたのか気にはなっていたが、悲鳴を聞いて探索に出ていたそうだと。僕とテツヤは悲鳴は聞いていないから、きっと目覚める前に聞こえたものだろう。高尾鈴の発言だけじゃ信用できないところだが、二人して言うものだから本当だろうと。

それと誰も気付いていないし、恐らく彼女本人も気付いていないようなことだが、何故あの時逃げようと言ったのか?涼太たちが走ってこちらに来たときは確かに不思議そうな顔をしていたのに、一瞬目を離した隙に慌てた様子で逃げることを促してきた。涼太たちも止まることはなかったし、何より後ろにいる何かから逃げているようでもあった。彼女には、それが分かったというのか…。

高尾という少年は真太郎の相棒で良き仲間だとは思う。その妹の鈴という少女は、全く知らない人物だ。得体の知れない人物をすぐに信用しようなどという馬鹿な考えはしない。とはいえ、仮にも女性が肘掛け部分に座るなど…あまり気乗りはしないが、隣に来るよう言ったとき断られたのには驚いたが。
睨みを利かせたときも怯まなかったし、少し威圧を掛けた誘いも断るし。(気付いていないようだったが)
もし出会ったのがここじゃなければ、とても興味深い人だとは思う。信用するかしないか、それはさて置き。
高尾も彼女をすごく気にかけているのはあまり知らない僕でも分かった。過保護、とはまた違う。

自分の考えを一度ここでストップさせ、涼太の言葉に答えよう。いいのか、悪いのかと聞かれれば。

「まあ大丈夫だろう。テツヤも、伊月さんも見ているだろうから」

「う、でもっ」

「きーちゃんっ、鈴ちゃんはきーちゃんが思ってるほど悪い子じゃないよ!」

桃井が口を挟んだ。彼女は大丈夫だと踏んだらしい。何故そう思えるのか、桃井自身が話した自分を助けてくれたと言うあの事があるからだろう。見るからに本人は忘れていたようだったが。

「涼太はどうして怪しいと思う?」

「え…」

「意見を聞かせてくれ」

そう言った途端すぐには言えなかったのかもごもごとどもり、やがて小さな声で「だって、」と漏らした。

「アイツだけ、何も分からないじゃないッスか…」

「…最初なんてそんなもんだろう」

まだ僕も、完全に彼女を信用した訳じゃない。ただ誰かと一緒に行かせるならまだ行動が許されるだけ。
謎の行動をした訳でも、引っかかる言葉を話した訳じゃない。至って普通で、至ってシンプル。頭も少し回るらしい。だから騙そうとしてるなら少々皮を剥ぐには時間がかかるだろう。その必要もないと思うが。
そう言えば最初に逃げる時、僕を追い越してこの部屋を空けていたな。今思えば少し焦った表情だったかもしれない。

話に聞いた化け物らしき存在は知っている。とても見れたもんじゃないとか。それを少なからず彼女は見たとすれば、その表情にも納得がいくかもしれない。

まだ口論する桃井と涼太の止めに入る誠凛の相田さんは、彼女をどう思っているか。
そもそも、僕たちがここに連れてこられた意味。仮に彼女が仕組んだとしたら動機は?それすらもまだ分からない以上、彼女についてとやかく言う必要はないだろう。探りは何度か入れてもらうが。

今はともかく、彼らが無事戻って来てくれることを願うばかりだ。

20140918


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