下見
二人と合流した私たちは私は日陰に連れて行かれここにいるよう言われた。少し離れた場所で青峰君は赤司君に怒られてた。なぜ?
そうしてる間にもじわじわとみんな集まって黒子君と緑間君が到着。あとは黄瀬君だけになった。
さすがに遅すぎる。なにせ約束の時間からすでに30分は過ぎているのだから。
ここである考えが浮かぶ。
『黄瀬君今日仕事入ってたのかな?』
ぽつり呟いた言葉だけど赤司君が反応し「事前に休むようには言っておいた。だから仕事はないはずだがな」との事。じゃあなぜ。
「人事を尽くしていないから遅れてるのだよ」
「緑間君、それは多分ないと思います」
『「多分かよ」』
見事に青峰君と見事にハモった所でようやく黄瀬君も到着。
遅れた理由を赤司君が問い詰めてる。黄瀬君は冷や汗だからけだし、赤司君は後ろ姿だけど、なんか黒いオーラ出てる。すげぇ。
心の中で合掌する。お粗末様です。
合掌してる間に赤司君は黄瀬君と話し終えたようで集まったみんなを一通り見てから。
「さて、行こうか」
ようやく下見です。とても楽しみです。
ちゃっかり赤司君に手を繋がれながら歩くこと10分程経過。
それなりの立派なアパート?一軒家?マンション?が見えてきたところで「あれだよ」と赤司君が横でみんなに言う。
いろいろ迷ったのには訳がある。一言で言えば立派。いや豪華?大きい?とにかくすごいんです。
そのまま玄関前まで行くと一部の人たちが目を輝かせた。
どうしたんだろう、と彼らの目を辿っていくと…ああ、なるほど。
「これは…」
「おお…」
「すごいッス…!」
「赤ちん…!」
一部の人間=背の高い人。
どうやら玄関ですでに大喜び。よかったね、と笑いながら言う。
玄関の背丈が紫原君より大きく、入るとき誰もドアにぶつからないようになっている。これは嬉しいだろうな。
紫原君は赤司君に抱きついてるし(ちょっとよろけたけどちゃんと受け止めた赤司君すごい)、緑間君はドアを嬉しそうに眺めてるし、黄瀬君と青峰君はすごいすごいと騒いでる(主に黄瀬君が)。
「驚くのはまだ早いぞ。早く入ろうか」
玄関前で並ぶ大きな人たちを掻き分け鍵穴にガキを差し込み、焦らしながら開ける。
まだちょっとしか開いてないドアに「赤司っち!早く!」とうるさいわんこに突っ込んで一気に開けた。
途端、歓声が上がる。私もつい声に出ちゃたけど。
まず先と同様、紫原君でもぶつからない高い天井。広い玄関。これならみんなが一斉に帰ってきても大丈夫だろう。多少込むけど。
バタバタと入っていくみんなを見送り、残ったのは私を含め、赤司君、黒子君、緑間君の4人だ。
残りの3人はこういうの好きそうだもんね。紫原君はちょっと意外だったけど。…子供だと言われたら納得してしまう。
「全く…」
呆れながらもそわそわしてる緑間君につい笑ってしまう。
言ってる事と行動がバラバラですよ。
「僕たちも早く行きましょう」
『行こ行こー』
「優、そう引っ張るな」
『じゃあ離して』
「それは却下だ」
『…む。じゃあ引っ張られても文句言わないでよ』
「それも無理だ」
『黒子君Help!』
「なんか発音良いですね」
「さすがは帰国子女なだけはあるな」
「中学とは大違いなのだよ」
『おい』
なんかうまいこと誤魔化された感。
はぁ、と一つ溜め息を吐いて廊下を進んでいく。
あのやりとりをしながらも靴を脱いでいった私らはある意味すごいと思う。自画自賛ってわけじゃないけど。
部屋と廊下を挟む扉は半分開かれていて捻ることなくそのまま扉を押すとリビングが見えた。ちらちらと先に行った青峰君たちもいる。
漸く来た私たちに気が付くと赤司君の前にずんずんと詰め寄る。目がすごくキラキラしてる。楽しいんだなぁと他人事みたいに思う。
「赤司っち!あの部屋の数はなんスか!」
「ああ、みんなで住むからな。それぞれの部屋を作らせた」
作らせたって…えぇ。さっきから気になっていたけども。
『赤司君…この家まさか…』
「ああ。その通りだ」
赤司家すげー。
つまりあれだ。建てたのだ。この家を。この日のために。…赤司家すげー。(大事な事なので2回言いました)
どうりで200cm以上の紫原君でもドアに頭がぶつからない訳だ。納得。
漸く手を離してくれたところで私も自由に動き回れる。
ソファにテーブル。テレビに庭。キッチンもすごい。広い。2、3人は余裕だと思う。男3人でも余裕なくらいだ。4人はちょっときつそう…。
奥に階段を発見。多分この上にみんなの部屋とかあるんだろうな。
一通り見たので2階に行こうと階段の元まで行ったところで、赤司君から制しの声。反射的に声の主の方に振り向く。みんなも先の声の主を見てる。
「そっちはまた後だ。今はこっちに来い」
指されたのは赤司君と黒子君の間。つまり傍にいろということですか。
仕方ないなと渋々黒子君たちの間に入る。そういえば緑間君あんまり喋ってないよね。
『緑間君、生きてる?』
「生きてるのだよ。勝手に殺すな」
『そこまで言ってない話飛びすぎ』
流されてはいないようだ。安心しました。
なんで2階に行っちゃいけないんだろう…。
「1階はざっとこんなもんだ」
「とてもいいですね」
「広いッス!」
「当然だ。一緒に住むんだ。これくらいなくては」
「おー!バスケゴールもあるぞー!」
『え、マジか』
「こら優」
『なんで私は動いちゃダメなの』
「これから2階に行こう」
『さっきはダメって言ったのに!?』
「先に感想が欲しかったんだよ」
相変わらず謎です。赤司君。あと色々気になるけどそれも全部後回しだ。
ようやく2階に行けるんだ。黄瀬君がすごいテンションだったし、一体どんなにすごいのだろうか?
◇ ◇ ◇
赤司君の指示により、前から順に赤司君、私、黒子君と横に一列。
後ろに緑間君、紫原君。更にその後ろに青峰君、黄瀬君の順番で短い階段を上ってく。
黄瀬君に関しては、まだ言っちゃいけなかったらしく、3分ほどお仕置きされてた。断末魔の叫びと共に一同、合掌をせざるを得なかった。
ちょっと上るだけの階段を登り切り、そこに広がる扉の数。真っ直ぐに伸びる一本の廊下。
幅は紫原君と緑間君が並んでも大丈夫だろうか。いや、ちょっときついかな…?
扉にはそれぞれ名前の書けるプレートがかけられており、部屋割りを決めて名前も書ける。最初は間違えそうだし(なんてたって多いからね)、これはありがたいと言えばありがたい。
一番にあった部屋を開けると10畳くらいの部屋。天井も高い。…あ、全部か。
「部屋はどこでも好きなとこを選ぶといい。どこも同じように作らせた」
どこでもいいなんて迷う…!
「あ、じゃあオレ、一番手前でいいッスか?仕事ある日とか早く行かなきゃいけないんで」
「構わん。他はどうだ」
「構わないのだよ」
『なのだよ』
「なのだよです」
「真似するな!」
「大輝は?」
「いいぜ」
「オレもいーよー。適当でいいからー」
『じゃあ私一番奥の部屋にs』
「いや、優はここだ。テツヤはその隣ね。そして僕はここだ」
流れで一番奥にしたかったが赤司君が取り、その隣に私が。更にその隣が黒子君、とまあ見事に(男子の中で)ちびコンビに挟まれる形となった。絶対これ事前に打ち合わせしてたでしょ。
あとは余りで適当に決めた。奥から順に赤司君、私、黒子君、緑間君、紫原君、青峰君、黄瀬君という感じだ。
決め終わった後赤司君は妙に機嫌がよかった。…まあ、いいか。
今は近くの喫茶店で一休み、と言ったところだろうか。ちなみに最初青峰君とお茶したところだ。
先と同じでミルクティーをお願いした。どうやら自分でも知らぬうちにハマってしまったらしい。
『ところでさ…』
ミルクティーを一口飲み、ずっと気になっていたことを思い切って切り出す。
『なんで一緒に住もうとか言い出したの』
カチャリとカップとソーサーがぶつかる音を聞きながら向かい側に座る赤司君を見る。
赤司君はそこでくっと口角を上げ、同じようにカップをソーサーの上に置く。
手を前に組み絡まった指に顎を置く。なんかあざとい。
「僕がみんなと一緒にいたいからだ」
『みんなと?』
「高校はバラバラだっただろ?せめて大学くらいは一緒にいたいじゃないか」
「あー。卯月っちはアメリカにいて、オレたちみたいに簡単に会えないッスもんねー」
『それは分かったの。だからって何も一緒に住むこともないじゃん?って思って』
「何を言ってるんだ。高校はほとんど会えなかったじゃないか。だからその分埋めようと思ってね。一緒に住むという結果になったんだよ」
つまり、アレか。寂しかったんだね…。
遠回しだけど寂しかったとアピールしてくる目の前の帝王さんにきゅんとしてしまった。証拠に目も切なそうだ。
本当…正直じゃないんだから。
『赤司君は相変わらず可愛いよね』
「優のほうが可愛いに決まってる」
お互いクスクス笑ってる私たちの他に、黒子君も同じようにクスクス笑っていて、緑間君は眼鏡のブリッジを上げながら口角が上がっているのが見えた。
二人とも向かい側の席にいる為、一応見える。
こちら側には青峰君と黄瀬君と紫原君がいるけど3人は分かっていないみたい。ぽかーんと口を開けて二人は顔を見合してるし、紫原君は変わらずお菓子をサクサクと食べている。
でもきっと紫原君のことだから薄々分かってるんじゃないかな、という女の勘。
『引越しはいつにしようかなー』
未だに頬は緩みっぱなしだがそんなの知らないフリして、また一口ミルクティーを飲む。
先ほどよりも甘く、幸せな味がした。
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