もう一度キミたちを知る | ナノ
苦手なもの、好きなもの

例えば真昼の空の下、ただのんびりと時間が過ぎるのを待つとしよう。
広い草原にでも行って太陽の光をいっぱいに浴び、草の上に寝転がって一日を過ごすとする。日も沈み家に帰った日にはきっと真っ黒だと思う。季節にもよるだろうけどこの場合それが一番適切だろう。

つまり何が言いたいかというと暇なのである。
黄瀬君以外みんな学校。私は午前中だけ。そして黄瀬君は仕事。暇潰しにと掃除したり洗濯したり新しいメニューでも開発してみたりした。けど時間がまだ余ってる。買い物は済ませたし、バスケの気分ではない、不思議と。こういう時はバスケなのになぜこういう時に限って行こうという気が起きないのだ…!
そうだ、散歩に行こう。いろんなとこに行ってみよう。何かあるかもしれない。緑間君に言われた今日のラッキーアイテムの黒のヘアゴムを持って早速行ってみよう。結ってもいいんだけど今はそんな気分じゃないので腕につけておく。



◇ ◇ ◇



少し賑やかな商店街を抜けると広くてのんびりした公園がある。デートスポットとかによく使われるらしく、ちらほら男女の姿が視界に入る。一人だけというのは特に珍しくはないが、なんだか少し恥ずかしい。公園中央にある池の回りに設置されたベンチで人間観察をしてるとどこかで見たことのある顔、とよく知る人物が見えた。
向こうも私に気づいたらしく、一緒に来ていた人の手を引きこちらの方に向かって走って来ている。完全にこちらに来てるなと分かればベンチから立っていた。


「卯月っちー!」

『黄瀬君、お仕事終わったの?お疲れ様』


仕事終わりの黄瀬君の後ろで固まってる人に触れた方がいいのかやめておいた方がいいのか分からないが、今はそっとしておこう。失礼かもしれないけど…。
今日の仕事はどうだったとか、何していたのか聞かれていると黄瀬君が思い出したように後ろで固まってる人を無理矢理前に出してきた。こらこら…。敢て触れなかった私も悪いけど。


「えっと卯月っち、こちらオレの高校の先輩の笠松先輩ッス」

『あ、この人が…』


道理で見たことあると思ったんだよね。
高校時代は結構お世話になってたみたいだし。じゃなきゃここまで懐くだろうか。


『初めまして卯月優です。黄瀬君とは中学の同級生で…』

「ども、か、笠松です…」


前に出されたことにより更に固まってしまった笠松さん。一体どうしたのかと黄瀬君に目で訴えてみるとすぐ視線に気付いてくれた黄瀬君は笠松さんに聞こえない様「先輩は女性が苦手なんス…」とこっそり教えてくれた。なるほど、つまり、


『私女性に見られてるのね…』

「卯月っちはどこからどう見ても女の子ッスよー」


何というかこういうタイプの人は初めてなのでどうしたらいいのかわからない。
先輩ということはバスケもしてるはず、いや元チームメイトが先輩というんだからそれしかない。
…よしっ。


『笠松さん、お時間があるようでしたら私とバスケしませんか。黄瀬君も一緒にやろう』

「卯月っちとバスケ…!オレはいいッスけど、先輩どうッスか?」

「え、お、おおお女とバスケすするのか…?」

『きっと見方も変わると思いますよ』


少しでもこの態度がマシになればと思って提案してみたんだけど、黄瀬君きっと別の方向にとってるね。含み笑いというか巧み笑いというか…。


「やりましょ先輩!」

「じゃ…少しだけ、だからな」

『そうと決まれば行きましょう!近くにストバスありましたから』


そうして3人並んで近くのストバスにやってきた。運よく誰かが忘れて行ったバスケットボールがボール付近に落ちており、それを借りることに。
どうするか話し合った結果、まず最初に準備運動も兼て私と笠松さんで1on1。それにズルいと黄瀬君が言うので黄瀬君と私で1on1もすることになった。あくまで、予定なんだけど。念のためボールの状態も見たが、最近空気を入れたのかかなり固い。これなら思いっきりやっても大丈夫そう。


『笠松さん、本気で来てください。大丈夫ですから』


そう言って黄瀬君にボールを一度渡し、腕に付けてた黒ゴムで髪を括った。



◇ ◇ ◇



「黄瀬ェ!もっと早く動け!」

「無理ッスよおおお!!」

『泣いてる暇あったらボール取ってみなよ、もう』


一通りバスケをやると笠松さんも慣れたようで以前の調子に戻ってる。変に固まってたりもしないし、緊張してる様子もない。作戦は見事に成功したけど、これで他の女性にもあのような態度は取らないだろうか。


「確か卯月は黄瀬と同中だったな」

『あ、はい』

「これからも黄瀬のことよろしく頼むわ」

『…もちろんです』


その時はその時で考えよう。







「オレを忘れないでほしいッス!」

『はいはい』

「雑い!」





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