愚痴と趣味と
大学の授業は、少し退屈。
別に問題が分かりすぎて暇とかじゃない。そんな頭よくないし。
何が退屈って、一向に先に進まない事。
似たような問題をぐるぐると回ってまるで全員が理解するまで次に進まない、って感じで。
それに担当教師がダメだ。事ある事に注意して一向に進みやしない。
小さな話し声が聞こえたらすぐに注意する。最初はすっきりするんだけど今はもうめんどいとかそういう話じゃない。
シャーペンを落としたくらいで怒鳴る。くしゃみしても怒鳴る。欠伸もダメ。
「それ小城だろ?」
『先生を付けなさい。先生を』
とにかく、しんとした静かな空間で授業をしたいらしい。
ここ数日での推定だが。
そんなことを青峰君と黒子君に愚痴を溢してます。最初は黒子君だけだったはずなんだけどいつの間にか青峰君もいて。神出鬼没?この前も似たようなことあったよね。
なんちゃって本当は課題見てほしいと向こうから来ただけなんだけど。ちゃっかり会話に参加しちゃってるわけです。
「確かにあの先生はちょっときついです。というか嫌です」
『いつにもまして黒子君がちょっと酷い。気持ちわかるけど』
「でしょう?バスケしてストレス発散しましょう」
「お、バスケやんの?俺もやるわ」
『青峰君は課題やってからね』
「いいからやろーぜ」
「…あ、もしもし赤司君?」
「わーこの問題ムズカシー」
課題からバスケになった途端目を輝かせるもんだからこういう場合赤司君の名前を出せば大抵は課題に行く。
赤司君、またお名前お借りしましたよ。
『少しバスケしよっか。あの教師早くくたばっちまえ的な意味で』
「ですね。僕もファントムシュートとイグナイトでボコボコにします」
『本当にやったらダメだよ?』
「わかってます」
黒子君は部屋の隅からバスケットボールを取り出して部屋を出ていこうとする。私も後ろについて行く。
扉を閉める前に青峰君に『課題ちゃんと全部終わらせたら青峰君もおいでよ。でも早くしないと終わっちゃうからね』と言っておいた。これなら少しはやる気も出してくれるだろう。やってなかったら…しばらくバスケ禁止で。
そういえばバスケであんなにキラキラする青峰君何度か久しぶり。
きっと今の光と影のお陰なんだろうな。
『…ふふ』
まあ、戻ってよかったよ。本当に。
◇ ◇ ◇
黒子君とバスケすること数十分。さすがあの赤司君を負かした影だ。パスも、シュートもあの頃と違う。少し違うのは私とやる途惑い、みたいなもの。
そんな緊張しなくてもいいだよ。
『ファントムシュートってイグナイトを使ったシュートだよね』
「はい。青峰君がアドバイスをくれて、それで」
『へぇ…青峰君がね…』
そんなこと言うようになったのは負けてからだろうなとは思う。こっそり見てたがあのシュートはすごかった。初めて黒子君のシュートが入った瞬間をこの目に納めた。帝光時代の黒子君を知ってるものたち、つまりキセキの世代と桃井さんと私からすれば祭りみたいになるかもしれない。それほどめでたく、すごかった。
『ああ、黒子君、腰の軸さっきより歪んでる。腰だけ後ろに引っ張られるように意識して』
「はい」
『…あ、ごめん。つい』
「いえ、ありがとうございます」
ついつい昔の癖でフォームのあれこれを指摘してしまった。今の黒子君なら普通のシュートフォームでもシュートできちゃったりなんかして。
それはそれで見たいな。
「そういえば小城先生に続き、小崎先生もちょっとムカッときますよね」
『ああうんうん。ちゃんと前向いてろ!ってね。あれすごくうるさい。私の後ろにいた人が一瞬だけ目を逸らしたらしいんだけど、その時私の横に来てまで注意してたんだよ。あの声で』
「…あ、もしかしてあの日ですか。だから片耳聞こえなかったんですね」
『そうなの』
小崎先生も困ったものだ。その日一日は本当に聞こえなかった。どれだけうるさいのって話で。あの大学個性豊かすぎる。キセキみたいに。まるでキセキ大学だわ。でもなぜか“失敗した”とは言えない。あの学校にはほんとにいろんな人がいるから。
小城と小崎が組んだら学校はおしまいだと他の人が話してたのを話すとうんうんと頷いた。私も内心頷いたくらいなのだから。
反して枡井先生は優しいけどしっかりしてるしあの二人のあとだと癒しだよね、とか花を咲かす。
もちろんバスケも忘れず、ずっとやってる。
器用だなとチームメイトに何度も言われたのを覚えてる。つい数年前も言われた気がするな。
『そういえば明日は小城先生の授業だ…』
「確か紫原君と一緒ですよね。頑張ってください」
『お昼は一緒に食べようね』
「では学食にしましょう。奢ります」
『え、ほんと?悪いわ、そんなの』
「いいんです。疲れてるでしょうから」
『…ではお言葉に甘えて』
ちゃっかりお昼の約束も済ませ、青峰君まだだねーと彼が来るのを待つ。
忘れちゃったかな?と思い、時間を見るとそろそろ買い出しに行った方がいい時刻だ。
『買い物行ってくる』
「あ、僕も行きます」
『青峰君待たないの?』
「さっさと終わらせない彼が悪いんです」
『それもそうだね。じゃあ行こっか』
二人並んでスーパーへ向かって歩き出す。
帰って青峰君いたら怒りそうだなぁ、とかそんな話をしながら。
◇ ◇ ◇
少しずつではあるが、私はキミたちとの距離を取り戻しつつあります。その時が来たらみんなに話さなくちゃいけないことがあるんです。
話す時みんながどんな反応するのか少し怖いけど、…今のキミたちを知っていけば自然とわかるはずだから。
だから。
もう少し、待っててください。
私がここ数年で抱えた少しだけちっぽけな秘密を。
きっとキミたちはそんなことか、って言いそうだね。
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ちょっとシリアスみたいな展開。
でもシリアスじゃないです。残念。
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