真実を欲して | ナノ


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ただひたすら歩いてると時々、いやかなり景色が変わる。さっきなんて人の死体がたくさんあった。でもどうしてかな、不思議と見慣れた感じがあった。ここを知ってる。そう誰かが言っていた気もする。
けど知っていようがどうだっていい。


『…?』


そういえば私、どうしてここにいるんだっけ?
何か知っておかなければいけない事がある気がする。


「レイ…」

『っ!?』

「僕は…どうすればいいの…?」


後ろに人の気配なんてなかったはずなのに。今ここにはよく見知った目を持つ男の子がいる。彼の名は…。


『ヴィンセント…?』

「僕は悪いくないんだっ!全部、全部…!」


ここは歪んだあの子の記憶。掴むことも、触れることもできないはずなのに。
どうしてこの子は私に掴めている?
どうしてこんな、切なくなる?


『……いいよ、仕方ないんだから』


自然と言葉が出た。私の言葉ではない。
何かが重なる。けどなんなのか分からない。思い出したくない。
ヴィンセントらしき子供はふっと笑うとそのままどこかへ行ってしまう。なんとなく後を追わなきゃいけない気がして追っていくとかなり高さのある塔の前で彼に出会った。


「あれ!?君は…!」

『…どうも』


塔の中に入ると彼は独り言を言いだした。独り言、というか誰かの話してる?誰だと言うの?
長い階段を上がり、漸く部屋があるらしきカーテンが見えると彼は一歩早く走って行く。


「アリス!」


彼があの子の名前を叫んだと同時に部屋に入った私はとても嫌なものを見た。“人間だった”時のあの子が死ぬ記憶。まるで第三者目線。
彼は、壁にへたり込んでしまった。私はというと一歩ずつ“人間”のあの子の元へ寄って行く。なぜだか悲しくない。それは私が――。


――ドクンッ


空間自体にヒビが入りだした。どういうこと?
原因は後ろにいる彼と見た。胸に手を当て苦しそうにしているのだ。
そして聞こえるこの音…それにこの感じ…もしかして、


『刻印の針が…進む?』


―カチッ


針が動いたと同時に空間がドッと崩れていく。目の前のあの子も消えていってしまった。そんな中彼もどこかへと行ってしまう。足場がなくなりつつあるこの空間を彼は平然と歩いて行ってる。何とか追いつかないと。
ギリギリな足場を見つけて飛び移ってなんとかまともな地面に辿り着くことが出来た。
数メートル離れたところに彼を見つけた。まだこの空間を壊しているようだ。
止めなきゃ…でもどうやって。


「オズ!!」


振り向いた時見えた彼の眼は光がなく、まるで我を見失っているようだった。
離れたところでそれを観察している私は何をしているのだろう、ギルバートのように止めに行かなきゃいけないのに。そこで見ていろと言うかのように縛られている足。この感覚、前にもどこかで…。
ピシッとまた壊されていく空間に意識が戻り前を見た。


「そうか…。なら壊してしまおう…。アリスという存在を!
そうすればもう君が苦しむ必要はなくなる…オレが消してあげるよ…アリス!」

「いい加減にしろ!!!」

『…わぁ』


従者が主人を叩いたよ。でもこれはいい選択だろう。何とか意識は戻ってきたようだ。
事を理解すると彼は膝の力が抜け座り込んでしまう。どこから出てきたのか、あの子が鎖に繋がれて出てきた。後ろに彼とよく似た――壊れているけど――人が。多分あの子はあれに捕まったんだと推測してみた。
漸く動いた足を引きずって二人の元へ着いたと同時に彼はあの子へと続く階段に走り出した。


「アリス…オレは人間だった時のアリスのことはわからない。でも、今のアリスのことだったらオレにだってわかるんだ!」


すぐ怒って、足癖が悪くて…今のあの子について一つ一つあの子を肯定していく。それであの子を助けれるのか。どうして、そんな事を言うんだろう。もしかして何か聞こえてるのかもしれない。私と彼女のように…。
それにしても斜め上からの視線が痛いなー…なんかデジャブ。


「仕草とか考え方とか、表情とか、そういう一つ一つを、アリスが「アリス」だってことを伝えられるように――――オレ達がちゃんと見てるから…!」


ボロッと鎖が消えていき、彼はあの子に手を伸ばしその手を掴んだ。


「だから――――アリスは、アリスのままでいいんだよ…!」


あの子ふにゃりと泣きそうな顔して…いや泣いた。照れ隠しか、顔を彼の胸に埋め、表情は見えなくなってしまった。
彼のいた足場は崩れてしまって真逆さまに落ちてるとこをギルバートが受け止めに走って行った。


泣きそうな顔も彼女と重なってしまう。
あの子は彼にべったりだし、まだダメみたい。
仕方ないと納得するのはなぜだろうか。ここに来てから少し自分の考えが違うようになってきた。





―チリー――…


『…チェシャ?』


誰にも聞こえないように小さくなった鈴の音に呼びかけた。




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