真実を欲して | ナノ


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準備が整ったようで一番手が中央にある椅子に座る。こちら側は彼がいきなり一番手らしく「はいはーい」とハートが付くくらいの声で椅子に向かう。
ギルバートと呼ばれた青年の隣に私も移動し、とくと見物させてもらおうと思う。隣に移動したことによりギルバートは私に気付く。チラリと見られ、一瞬目が開いたがそれだけで特に気にしないらしい。こいつ知ってる…みたいな顔されたけど気にしないでおこう。

第一回戦の相手は年上の男。年下である彼が勝てるはずがない。鍛えているなら別だけど。
向こうの声は聞こえないが彼がものすごく笑顔だ。ちょっとぶりっ子みたいに演じている。
彼の楽しそうな笑顔は消え次に怪しい笑顔になり何かを喋り出した。男が見る見るうちに小さくなってる。ギルバートはハラハラしてるし…。あ、これ勝つな。


「はいっ、レディー…ファイ!!」

『…はや』


合図と同時に軽々と男に勝利。負けた男はほとんど屍状態で言葉もままならない。
見事勝利した彼の肌が妙につやつやしていて、少し遠くで若干震えてるギルバート。一体あの男に何したんだ。いや何言ったんだ。

次はギルバートの番らしくぶつぶつ何か言ってる。彼も何か言ってるし。
そんな中最近聞いた声が聞こえた。


「え?助っ人?あっはっは構いませんよ。任せておきなさいお嬢さん!」


対戦側の方へ揃って視線を移すとどこかで見たことあるおじさんが出てきた。
そして彼は言った。


「このオスカーおじさんが美女のピンチを華麗に救って差し上げましょう!」


そんなのアリか。
よくよく見てみると今朝盗み聞きしてた数人の一人。なぜか左頬にキスマーク。ちゃっかり庶民の服着てる。どこで手に入れたんだろうか。
なんてどこか場違いな考えを巡らしているとギルバートが逃げた。それはもう華麗に。だが逃げると言うことは周りに集まったギャラリーを抜けなければいけない。まず不可能だ。
案の定すぐに捕まり椅子に座らされビクビクと肩を震わし何かぶつぶつ呟いている。目も合わせようとしない。何かあったんだろうなぁ。


「ったくおまえは…。そう言ってこの10年間オレを見るなり逃げだすんだからよー」


呆れたように笑う…えっとオスカーさん。ん?オスカー?
どこかで聞いたことあるその名前を必死で思い出そうと頭を捻る。オスカー…オスカー…。あ、オスカー様。


『え、オスカー様…』


ぽろっと叔父様の名前を口にした時はすでに勝敗は決まっており、どうやらオスカー様が勝ったらしい。負けたギルバートは真っ白になっていた。傍で彼が「…ギル…」と呆れている。
今はあの子が椅子に足を掛けギルバートを嘲笑っている。ラストがあの子なら対戦相手はあの人だったと思うのだが…。


「だが安心しろ!下僕の不始末は私が片を付けてくれるわ!!」

『…その自信は一体どこから…』

「ど…どうしよギル。おまえが負けるとは思わなかったから…アリスについて何も考えてないよ…!?」


それ結構ヤバいんじゃないと思う。
向こうも女には容赦しないと宣言。あの子は事の重大さに気づかず、かなり挑発をしている。嫌な予感しかない。


「いや…でもアリスのことだ!!」


その予感は的中し、どうやら普段の力は出ないらしい。
頑張って押そうとしてるがびくともせず焦りが出てきてる。


「腕が折れても…文句は言うなよぉぉお!!?」

「アリス!!」

「……っのなめるなぁぁあ!!!」


誰もが負けると思ったその時、一瞬どこからか力が流れるのを感じた瞬間あの子から黒うさぎの影が一瞬だけ見えたと思ったらすごい勢いで愛相手の腕を折るくらいの勢いで机に叩きつけた。
机の向こうでは悲鳴が聞こえるが、横ではやむをえん、などと言っている。彼が胸を押さえてる事から恐らく、彼だけじゃ力が抑えきれないからギルバートの力――確か黒い翼を持つチェイン――を使っているのだろう。…なるほどね。
ぴょんぴょんと嬉しそうに彼に報告するあの子に彼女と重なった。当然だ、だって…。


「ふ…っざけんなぁ!!!」


ざわりと辺りがざわつく。どうやら机を真っ二つに割ったらしい。すごい喧騒で腕が折れたとほざいているが絶対嘘っぽい。
ヤバイかなー退散しちゃおうかなーと考えているとあの男の後ろにオスカー様が。呆れた様子で帽子を奪い、綺麗にギルバートへと投げた。それを見事にキャッチするギルバートもなかなかすごい。


「ギル!逃げろ!」


ギルバートは彼を腕に担ぎそれぞれ逃げていく。
馬車を待たせている場所へ、最終的には集まるそうだ。どうしよう、この子を一人にしていいのだろうか。
いつの間にかいろんな人から果物などをもらっているあの子に声をかけてみる。


『そろそろ行かなきゃ、置いてかれるよ』

「む、わかった。案内しろ!」

『…命令するんじゃないよ』


これがいけなかったかもしれない。もしくはこうするべきだったのか。
お互い特に話す事なく歩いていると彼らの姿が見えた。


『…どうしたの?』


そこで隣にあった気配がいつの間にか斜め後ろにあり、振り向くと何かに拒絶している表情をした彼女。そのまま無言で来た道を戻っていく。
次いで後を追うがどうして戻るのかと一旦後ろを振り返ってみた。…3人が仲良さ気に話している。ただ、それだけのはずなのに。
私も思わず逃げるように後を追いだした。



◇ ◇ ◇



後を追ってきたのはいいが見失ってしまった。こっちに来たと思っていたのに…と階段を下りていると壁に手をついているあの子を見つけた。駆け寄ろうとしたけど先に誰かいるようだと、微妙ではあるが隠れる。


―チリーン…


『…え?』


この鈴は…。と振り返ってみるが今は姿を隠しているらしい。
すると前の方でバリバリと音がする。…バリバリ?こっそり覗くと今朝見たうちのまた一人…誰だっけ。とりあえず白い髪の男で。
白い髪の男はゆっくりとあの子に近寄っていく。チリンとなる鈴に一度振り向いた彼女。次の瞬間あの子を腕に抱きしめた。
白い髪の男の背後では黒い何かの影が二人を纏めて消し去った。
…訂正しよう。二人纏めて住処へと連れて行ったのだろう。まさか、まさかね…。

彼らのいた場所にはあの子の持っていた果物の入った袋と、白い髪の男が肩に乗せていた人形。一応報告するべきだよね…。
それらを抱え上げ階段を上ると彼がいた。


「あれ?君は…」

『……あの、これ…』

「!これ…」


腕にあったそれを彼に渡すとまたチリンと鈴が鳴った。





チリーン…



おいで…

おいで…おいで…

チェシャ猫のもとに…!






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