久々すぎてわからなかったみょうじさん、と呼ぶのは彼を通して知り合た知人の黒子くん。彼の知り合いは高身長な人たちが多いため、彼のような平均くらいの身長がいるととても楽である。主に首が。 これを言ったら拗ねるか絶交され兼ねないので絶対に口にはしないけど。身長だったら彼も優しい方だと…思う。 『どうしたの?』 「赤司くんとは、その後どうですか」 ピシ、と体が固まるのが分かった。それも一瞬で、きっと彼にはこれだけで分かってしまうだろう。いつも無表情の彼の眉がぴくりと動いたのを見逃さなかった。誤魔化したってしょうがないし、ちゃんと正直に答えるよ。 『進展なし、かな』 「ですよね」 …あれ。なんか辛辣…。 何故かいつもより辛辣な黒子くんは置いといて、挨拶もそこそこに早々に自分の教室に戻ろうとしたら、待ってくださいと透き通った声で呼び止められる。逃げられないためにか、腕まで掴まれた。 『なに?』 「これを」 手渡されたのは一枚の紙。折り畳まれた紙を開くと、そこにはたった一文。割と短い文章を読み上げた私はこれは?と黒子くんに意味を問う。けれど黒子くんは「友人から預かって来ました」とだけ言うと踵を返して言った。 制止の声も聞かず自分だけとっとと行ってしまった。え、私が引き留められた意味は…? まあいいかとこの話は終わり。次は渡された一文。 “×日、16時30分。第四体育館にてお待ちしてます” 時間、は一応部活が終わる時刻だ。この手紙の差出人は合わせてくれたのか、それとも偶然一致したのか。もう冬なこの季節、さすがに遅くまで練習は続けられるようなもんじゃなかった。 ああ、でもこの日付、何かあったような気がする。 言われた日付の日、自主練もそこそこに今日の練習は終わろうと切り上げた。今日はいつもより一段と寒く、雪も降るかもしれないと天気予報で言っていた。遅くまで練習して風邪を引かれても困るので、練習量はびっしり詰め込んで部活自体は早めに終わらせた。先に帰った部員たちはきっと体も温まってて、外が寒いなんて言えない…といいな。 かく言う私も、冬なのに暑いと言える。これはいい成果だ。残りの用事を済ませて早く帰りたい。 支度を済ませ、第四体育館に行くと明かりは付いてるのに誰もいなかった。体育館の電気が付けっぱなしってのはよくあることだから、別に何とも思わないけど。あ、今になってちゃんと消したか不安になってきた。ちょっと抜け出して、確認しに行こうか。と踵を返す。 「みょうじ」 踵を返したところで正面に彼がいて、私の思考は突然声を掛けられたことにより真っ白になる。一瞬だけ体が停止するのが分かりすぐ力を抜いた。 なんで、こんなところに彼がいるんだろ。 「なんで、って顔してるね。呼び出しのは俺だよ」 『…そう』 「中々話す機会がなかったからね。黒子に協力してもらったんだ」 機会がなかった、て訳じゃない。私が会おうとも、メールも返さなかったから。やっぱ怒ってるかな。怒ってるよね。メールも無視、会う機会さえ作らなかった。いくら優しい彼でも怒るに決まってる。嫌われたら…どうしよう…。 返事さえ可愛くない。今喋ったら何を言うんだろう。怖い。会いたくない。話したい。ごめん、って言わなきゃ。嫌いにならないで。何を言っちゃうんだろう、この口は。 「正直来てくれるか不安だったけど…来てくれてよかった」 優しいなあ、彼は。でも同時に怖いなあ。 余計なことを言わぬよう彼にバレない様口を噤む。 「少し俺に時間をくれるか?話がしたいんだ」 ーー俯いた私は、ゆっくりと頷いた。 きっとここからが長期戦。 (こんな時にでも可愛くない私ってどうなんだろう) |