アイツのことは何でもわかってるつもりだったさ


男バス主将赤司と、女バス主将みょうじとの喧嘩の件は、部内だけしか知らなかったはずなのだが、いつの間にか学年中…いや学校中に知れ渡っていた。赤司やみょうじが口外しないよう口封じしていたわけでもないが、すぐに知れ渡らなかったところを見ると誰も喋ってはいなかったらしい。知らず知らず出来上がっていた暗黙の了解のおかげだろうか。
しかしタイミングが悪かった。第三者の目から見てみょうじはもう怒っている様子はなかった。むしろ近寄ろうとしていたようにも見える。その時に広がった赤司とみょうじの喧嘩の噂。そのせいもあってみょうじが伸ばしていた腕はすぐに引っ込んでしまった。

そして、今も二人は喧嘩している。という話が二人の邪魔をしている。
…ように、俺は見える。あくまであの日あの場にいた第三者の目から見て、という話だが。

赤司は赤司で全体的にいつのも覇気がないし、みょうじの方も些か集中力が足りない。合同練習以外でもああなら、少し休んだ方がいいのでは、と思ってしまうほど。そこは他の部員たちがうまくフォローしているようだが。
俺たちも、ちゃんと赤司を支えてやらないといつどうなるか分かったもんじゃない。

チャンスは、あったのに。

どこのどいつかは知らないが、なんて時に話をしたんだ、愚か者。





ふとした時に窓の外を見つめては、みょうじの姿を偶然にも見つけて胸を痛める日が多くなってきた。これはどういうことだろうか。
今学校中は俺とみょうじの噂で賑わっている。喧嘩や別れた等の噂があると、生徒たちはそれぞれ色んな反応を見せるが、一体どうしてそんなにも反応が出来るのだろうか。本来ならみょうじ辺りに聞くのだが、如何せん話をしようとしない状態だ。無理に行って拒まれたりでもしたら俺は本当に立ち直れない自信がある。

つい最近、黒子と桃井、それとかなり癪だったが黄瀬に自分から行けと言われたが、先のようなことを言ったら全員同じような反応を見せた。同情と呆れを含ませた視線。
俺としても早くみょうじと仲直りはしたい。そして何故か最近増えた呼び出しもどうにかしたい。

朝、靴箱にあった一枚の手紙。内容は放課後指定の場所に来てほしいというものだった。うわさが広がり少ししてから、またこういった呼び出しも増えた。みょうじと付き合ってからはかなり減っていたからな…。
何を勘違いしてるかは知らないが、みょうじ以外とは付き合う気もない。もし別れたとしても、また振り向かせるまで。
喧嘩なんて仲がいい証拠だろう?掌の上の紙をくしゃりと握り潰した。

「赤司、どこに行くのだよ」

「ちょっとね。監督に少し遅れると言っておいてくれ」

「分かったのだよ」

全く、俺も暇じゃないんだけどね。


指定の場所に向かう途中、渡り廊下にいた俺は庭に二つの人影が見えた。それだけならまだしも、二つのうち一つは俺の彼女だった。彼女と向かい合わせに立つ見知らぬ男。どうして彼女がこんなところにいるんだ?
足を止め、物陰に隠れ息を潜めた。集中して耳を澄ませば僅かだか声が聞こえる。
悪いとは思いつつもやはり気になるから許してほしい。

「と、突然呼び出してわりぃ」

『ううん。それで話って?』

そこで漸く、彼女も俺と同じように呼ばれたんじゃないかと。つまりは告白。みょうじも告白されてたりするんだ、と初めて知った。…よくよく考えれば今までにも何度か遅れて部活にも来ていたようだったし、全部呼び出しだったなら…。確かにみょうじなら男女共に人気だからあってもおかしくない話。
しかし俺はそのようなことは一度も言われたことがない。てっきりないのかと思っていたのに。二つの意味でショックは受けた。

「もしよかったら俺と付き合ってくんね?」

『…買い物の話?』

「あ!ちがっ……好きだ、俺と、付き合ってほしい!」

これは俺の見解だが、相手の男の方は緊張で言う言葉を間違えたんじゃないだろうか。だとしたら彼女が買い物に付き合ってほしいのかと勘違いしてもおかしくない。俺も一瞬そう思ってしまったからだが。
慌てて言い直した男とは対照的に、いたって冷静なみょうじ。彼女はどう答えるのか、こっちが不安と焦りで動揺していた。今の彼女の表情は、曖昧に笑っていて読めない。答えてるところを見るのも怖いが答えを知りたい。断ってほしいと言うのが俺の本音だ。

『お気持ちありがと。でも私付き合ってる人いるから応えてあげられないんだ』

「っ…でも、気持ちが薄れてるって話だよ?ならさ、」

『私は、あの人の事が好き。だから、ごめんなさいね』

「そ、っか」

男の言おうとする言葉さえ遮って強く断った彼女。男は押され、それ以上何か言うわけでもなく、早々と立ち去ってしまった。まだ残っている彼女はどこか遠くを見つめていた。
俺はというと場所に行くことも忘れその場に立ち尽くしていた。男の発言と言い、彼女の答えとでまた別に動揺していたのだ。
気持ちが薄れているという噂。確かに俺も聞いたことあるが所詮噂ということで聞き流していた。けれどさっき彼女は堂々と好きだと、デタラメだといってのけた。まだ、好きだと。

そこで漸く呼び出されいたことを思い出し、赤くなりそうになる頬を抑え、急いでそこに向かった。
まさか彼女があんな風に言って断ってくれるとは思わなかった。惚れ直しそうだ。

きっと今話し掛けるチャンスはあった。けれど今じゃ駄目な気がした。どうしてそう思ったかは分からないが、とにかく駄目だ。もう少し準備をしよう。

呼び出した生徒に、彼女と喧嘩して別れた、という噂を聞いたのもまた驚いた。ちゃんと否定して、告白も断ったけれど。
こういう時にどうして彼女と話が出来ないのだろう。



(傍にいて、いてほしいと心から思う)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -