そこに甘えてたんだね


あの喧嘩の日から2週間と少しが経った。
バスケ部では週に一度だけ女子バスと混合練習があって、その時くらいしかみょうじを見る機会はなくなった。そして今日がその混合練習の日。
あれだけ廊下ですれ違ったり、昼を一緒にしたり、帰りを一緒にしたり、メールすらしなくなった。見る以外、会う機会が全くない。こんな事は初めてのことで正直どうしたらいいかも分からない。
先日みょうじの教室へ行ってみたが、タイミング悪く彼女の姿はなく。みょうじの友人に彼女の居場所を聞いて見たりもしたが、困った顔でごめんと謝られてそれで終わり。恐らく知ってはいるだろうが教えてくれない、というやつだ。…そんなに会うのが嫌なのだろうか。これには少なからずショックは受けた。

俺はみょうじに嫌われてしまったか…?

半分に仕切られた網の向こうでは、女バスがミニゲームをしていた。そのコート内に、みょうじの姿もある。
じっ、とみょうじを見てるとみょうじの近くにいた友人がこちらに気付いて苦笑した。それからみょうじと話していた。こんなにも見ているのに、視線一つ寄越してくれないとは…。さすがに辛い。

どうやって彼女と話し合おう。今は会ってもくれないから、それだけでも難しいかもしれない。
また休日に出掛けたり、家で一緒に過ごしたり、時には笑い合ったり、好きな話をしたり。そんなありきたりなことを彼女としたい。
手を繋いで、キスをして。恥ずかしいと頬を染める彼女の頬を摘まんで、突っ掛って来る彼女を見て楽しんだり。笑った顔も泣いた顔も困った顔も色んな表情をする彼女が、今は隣にいてほしい。

「赤司くん」

「黒子か」

「随分とみょうじさんを見てますね。どれだけ好きなんですか」

呆れたように言い放つ黒子の言葉の節々に棘を感じた。一呼吸の間を挟んでそのことを指摘すると今度は溜息を吐かれた。人の顔を見て溜息なんて、失礼だと思わないか?

「気付きませんか?自分がどれだけみょうじさんを見つめているか」

そのことの真意が理解できないまま、何も言わず黒子を見ていると数秒してまた溜息。そろそろ幸せ逃げるぞ。横目で時計に視線を移すと休憩時間はとっくに終わっている時刻。…瞬間、体の芯がひやりと冷えていく感覚。

「…悪い、すぐに練習を、」

「あ、それはご心配なく。皆さんすでに始めています」

呆気にとられる横で聞こえてきた部員たちの掛け声。急いでコートに視線を移すとそこにはすでに、練習を再開する部員たちの姿。どういうことだと目を疑っていると、また黒子が最初と同じような声で説明してくれる。
休憩終了時間は過ぎているのに練習に入らない男バスを見兼ねて、代わりに女バスの一人が男バスに適当に練習を言い渡したという。

「ちなみに来てくれたのはみょうじさんではなく、」

「……」

「彼女の友人さんです」

大方、代わりに来たんでしょうけど。と最後に誰に言うわけでもなく吐き出された言葉に体が敏感に反応した。代わりに来た友人、ということは誰かが気付いて言い渡して代理で来たということ。指示を出せるのは、彼女くらいしかいないのではないのだろうか。
先とは違ってそっとみょうじを見やる。そこには汗を流してベンチで休む彼女の姿があった。大事なのはみょうじが指示を言い渡したということではなく、こちらを見てくれたということ。
誰にも気付かれないように拳を強く握る。

意気込む俺を斜め後ろで見ていた黒子の声など聞こえるわけもなく。

「とっとと仲直りしてくださいよ。こっちはこっちで大変なんですから。赤司くんといい、みょうじさんといい…本当に面倒くさい人たちですね」



(今とても君に触れたい。逃げないでほしい)


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