白々しく振る舞おう


彼氏と喧嘩した。しかもみんなのいる目の前で大きな声まで出して。たまに喧嘩はするけど、家でだとか人目の付かない場所だったり。だから人目のつく、しかも部活中に彼と喧嘩してしまうなんて思い出すだけで恥ずかしいような、申し訳ないような、とにかくまた別の意味で恥ずかしい出来事なのだが。

それもすべて昨日のことになり、一日が明ける。
結局昨日のうちに仲直りすることは出来ず、むしろあれ以来一言も話していない。帰った後メールも来ていたみたいだけど、どれも読まず消去。どうせ明日会えないかだとか話せないか、そんな内容ばかりなのでしょう。私は謝ってほしいの。この際良い悪い放っておいて謝ってほしい。それが出来ないと言うなら暫く放っておいてほしかった。
言い方は私が悪かったかもしれないけど、それでも謝ろうとしないのは、私の小さなプライドが邪魔をするから。なんて言い訳がましいけれど。

「なまえ、仲直りは出来た?」

『出来てない』

「あら珍しい。…何をそんなに怒ってるの?」

それを今、しかも部活中に聞く?そう目で訴えれば、彼女は苦笑いで受け流した。…この話は終わりにする。気持ちの切り替えも大事、例え仲直りが出来なくても。いつか出来るとどこかで思ってる。今じゃなくて、ね。




時間は過ぎて昼休みとなった。私は今日必要以上にこの教室から出ていない。移動教室の時と昼飯のパンを買う時くらいはさすがに出たけど。
昼飯のベーコンの入ったフランスパンに齧り付く。私のこの内にあるイライラや気持ちも噛み砕けたら話せるのになぁ…。とぼんやり思った。そして寂しくなった。

「なまえー、一緒にご飯…ってもう食べてるし」

『ん、いただいてる』

「もう。…で、どうなのよ?」

『?何が?』

友人が前の席に自分のご飯を持ってきて座る。そんなのいつものことで見慣れてしまっている行動。
今彼女が言っている事は、恐らく朝も言っていたこと。仲直り、だっけ?この様子でしてると本気で言ってるのかしら。

「まあだろうと思ったよ。男バスの子ちょっと怯えてたし」

『…それ私には関係なくない?』

最後一口を噛み締めて、予め買っていたパックのミルクティーを啜る。前からは大有りよ!と言ってるような声もするが、全て聞き流した。だって私には関係ない。関係ないんだよ。アイツの機嫌なんて。
やっぱりちょっと物足りなくてミニメロンパンを取り出した。掌に収まるくらいの小さなメロンパンは食後のデザート感覚。スティックも好きだけど、こっちも好きなのよね。小腹が空いたらそっちを食べようかな。

『あ、そうそう。今後暫くソイツの話題出さないでね』

「え?なんで?」

『男バスと同じ目に遭いたいの?』

「滅相もございません!了解しました!」

大体何を言わなくても通じるっていいわね。これも長年の付き合いのおかげってやつかな。元々彼女は鋭いっていうのもあるんだけどさ、すごいよね。
彼女は残り僅かなご飯を急いで口にかきこんでいた。まだ時間はあるのに、そんな急いで食べなくてもいいんじゃない?

「…て、言うかあたし一言もカレシさんが原因だなんて言ってないんですけどー」

『何か言った?』

「いいえ!」

…はぁ。やってしまったかも。



(何もなかった。なんでもなかった。そう何もなかったようにして)


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