それには慣れてしまった
no.(07 / 22)  

昼休みは他の休み時間より時間は長い。仲の良い友人と昼を一緒にしてもよし、仲良くなりたい子と食べるもよし。休み時間と言うほどだから基本なにしてもいいわけだ。
けれどその時間を使って他人を巻き込むのはよくないと思う。
例えば殆ど無関係と言うか繋がりのない人間を呼び出すとか…?

「赤司くんの妹さん、で合ってる?」

「そうですけど、何か御用ですか?」

「ちょっと話があるの。そう時間は取らせないわ」

取らせないなら裏庭なんかに連れてこないでほしい。明らかに私の回答が悪いものであれば何かするつもりじゃないか。手は出してこないとは思うけど。男より女が怖いとはよく言ったものね。
まあ…大体の察しはつきますけどね。

「今日の放課後、あなたのお兄さんを屋上に連れてきてほしいの。いいかしら?」

「…すみません、私にも部活がありますし、教師に頼まれ事もされてまして。兄に連絡できる時間は無に等しいです」

なんて嘘だけど、用事はある。
それに兄とももう暫く顔を合わせていない。事情を知らないからこそ言えるが、こちらとしては急に連絡したと思えば突然屋上行けとかどうよ。
…もう3ヶ月以上は顔見てないかな。私は。

「っ私が先生に言っておいてあげる。だから呼んできてよ」

「先輩の言うこと聞けないのー?」

焦った先輩を見兼ねてか後ろにいた人が前に出てきた。

今更だがこの人らは女バスの人たちらしく、奥に引っ込んでる子の恋の応援だとか。告白は何とかいけそう、でも呼びだすのが困難らしく私を使ってきた。という感じだ。ちなみに今居る人間は私を抜いて四人。まず目の前の二人、奥に二人。
何故恋の応援を知ってるか、それはこんなのがよくあるということだ。今回も恐らくは…と思ったが当たりだった。
というか告白なんて普通に下駄箱に紙入れとけばいいんじゃないの?と言いたかったがすっかり言うタイミングを逃した。しまった。

奥に顔を真っ赤にした人の傍に一人が付き添い、目の前では女二人が私を挟むように見下ろしている。バスケ部の人って基本背高いよね。全く、頭が高いぞ。
不愉快な視線をビシビシ浴びながら目の前の二人を半睨むように見上げる。
この見下ろしている目が気にくわない、腹立つ。……潰すか。

「先輩だからっていい気にならないでください。それとそれを絶対後輩が叶えることもありません。ただただ嫌悪しか与えることのできない人間に従おうなど思いません。大体の察しはつきますが、それだけの為に脅すように頼み込むんですか?…あなた方の後輩が知ったらどんな顔するか…」

最後にわざと目を伏せ、チラリと様子を見ると二人は渋い顔をしていた。更に奥の二人も、顔を真っ赤にしていた彼女は泣きそうだし、隣にいた子は居心地悪そうに目を泳がしていた。…聞こえていた、のか。どうしよう、彼女たちにまで言うつもりはなかったのに。……ふむ。

意を決して一歩歩き出すとびくりと肩を揺らす先輩たち。見えないフリして奥の二人の前に立つ。目に涙いっぱい溜めて、それでも必死でこっちを見ようと頑張っている彼女は、とても可愛らしい容姿をしていた。私のこの可笑しな気持ちさえなければ、彼女を応援していたと思う。隣の付き添いに目をやればすぐに目を逸らされてしまった。彼女は何も言ってこないからまだ許そう。

そっと彼女の目元に指を近づけるとまたビクリと肩が震えた。なんだか私、悪者みたいじゃない。内心で溜め息をつきながら、目元に溜まった涙をそっと拭う。その動作を彼女たちはじっと見ていた。

「すみません、言いすぎましたね。泣かせるつもりはなかったんです。…ごめんなさい。
言いそびれたんですが、人を使うよりも下駄箱などに屋上に来てほしいと書いた手紙を出すのはどうでしょう。兄ならきっと来てくれますよ」

そこから先は私は知りませんがね。
最後の言葉だけはさすがに呑み込んだ。拭った涙が指を伝って流れた。
改めてみた彼女の顔はさっきの泣きそうな顔はどこに行ったのやら。少し目を見開いてさらに真っ赤になっていた。…なんでだ。
放っておいたら爆発しそうだが、どうしたらいいのか…ダメ元で隣の先輩を見ると彼女の顔も少し赤かった。もう戻ってもいいよね…。早くご飯食べて、今日の部活の事で雨宮と話したい。雨宮はもう食べ終わってしまっただろうか。


私もつくづくお人好しだと思う。他人の応援なんかしちゃってさ。自分だってその人の事が好きで仕方ないのに。
どうか彼女思いが通じないでほしいと願う。けれど通じても欲しいとも思うこの矛盾。
早く誰かがあの人と付き合ってくれれば、私はこんな辛い思いしなくて済むのに。早くこの馬鹿な想いを消してはくれないか。


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