ここはそう甘くないよ
no.(05 / 22)  

「一周30秒で走る思いで10周走るぞ」

部活の午後練の時間がやってきた。早くも新入部員も入った。バスケ部よりは少ないが、帝光運動部のほとんどが一軍二軍と別れたりするとこもある。多すぎて仕分けするこっちも疲れるのだが。教師は絶対分ってない。特にうちの顧問。全部任せる。
ちなみにうちは二軍まで存在する。

今年から部長に選ばれてしまった私は早速、面白半分な気持ちで冒頭の台詞を言ったのだが…なんというか、さすがというか。普通に返事をされて走りに行ってしまった。否定も嫌な顔も何一つしない同級生と先輩たちを見ると去年副部長だった先輩と目が合い、大丈夫なのかと目で訴えてみたところ大丈夫と言わんばかりにウインクをされた。ええぇ。
もしバテてしまったら個人に謝っていこう。そうしよう。

とまあ先輩と同級生たちを適当に走らせて新入部員の仕分けの準備をする。ちらりと見えた新入生の顔はどれも真っ青な顔して大丈夫なのかと言う顔をしていていた。それとこの人何言ってるのみたいな驚いた顔。そう、そういう反応が欲しかったんだよ。今年の1年出来るわ。

ああ言ったのは建前で、今日は主に1年の能力を見ようと思う。いい面材さえいれば一軍に、そうでない子は鍛えるための二軍へ。
…まあ、大半は私の名前が気になって入って来た子もいるらしいからな。さて、どう切り捨てようか。

「それじゃ一年は50m走でもしてもらおうかな」

二人ずつ走ってタイムをそれぞれ書き込んでいく。残り3分の1になってきた時走りに行かせてたメンバーが帰ってきた。…早くない?
残りもパパッと終わらせ、振り分けに悩みながら休憩時間を言い渡す。とりあえずどれくらいかは分かった。やる気のないものは恐らく名前に反応した子かな…。一生懸命走ってるのは分かるが上手く記録が出ない者もいた。

全体的に見ても中々だった。二軍担当者作ろうかな…。
悩んでいると背中に衝撃と言う名の突進を食らった。それなりにきつく、

「あーこら田沼ちゃん」

「ぶちょー!なにやってんの?」

「新しい部員の振り分け」

「ふーん?あ、ねねっ、今から100m10秒で走るから見てて!!」

「ばっか休みなさい田沼」

「面白そうね。5秒で逝って来なさい」

「漢字違うよ征夜ちゃん!」

「逝ってきます!!」

「田沼ぁ!!」

この3人は一年の頃から一緒に部活をしている、同時にうちのエース達でもある同級生。上から神崎、田沼、雨宮。不思議と一緒にいることも多く、そのこともありお互いのことを理解している。だからこんなことも言い合えるんだが…。
田沼の場合、走るの大好きっこだから、5秒で走れそうだな、と思って本気で言ってみたんだけど。

私が部長に選ばれたのは決まった今でも疑問に思っている。普通は3年である先輩がやって、3年か2年が副部長。今回は同じく2年の雨宮が副部長をやっている。雨宮曰く、3年は色々忙しいから、なら全部2年に任せちゃうね!…とのこと。

それと、噂で兄さんが主将になっているらしく、それの影響なのかもしれない。ちょっと迷惑な話だけど選ばれたならやることはやる。
そろそろ休憩時間を終わらせよう。田沼は……あ、走ってきたようだ。

「じゃあ次、校内をゆっくり一周するよ。1年も、できる限り着いてきて」

走ってきたはずの田沼に早く早くと急かされ、背中を押されながら自分の軽いストレッチを挟む。先頭走るのって、すごく気が引ける…。

「………」

遠くで、私を見る影があったなんて誰も知らない。


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